844 :本当にあった怖い名無し[sage]投稿日:2005/10/24(月) 18:55:47 ID:cZbXTL030[1/8回(PC)]
 ある日の朝、出勤途中に公園のそばを通りかかると、酒盛りの声が聞 
こえてきた。 
 公園に住み着いている浮浪者たちが、朝から宴会を開いているのだ。 
何処で手に入れたのかは知らないが、日本酒と重箱を囲んで愉しげに 
やっている。 
 もっとも、愉しげなのは彼らだけで、私と同じように公園のそばを通り 
かかったサラリーマンやOL、学生たちはみんな、顔をしかめていた。 
 新しい一日の始まりに、誰もが「今日も仕事に勉強に頑張ろう」と一新 
した気分でいる。平日の朝からすっかり出来上がった声を上げている彼 
らに、その気勢を削がれるのは全くの不愉快だった。 
 しかし、浮浪者たちに面と向かって文句をつける人はいなかった。 
 みんな、浮浪者たちと関わりたくないのだ。 
 それには、こんな理由がある。 

 いつの頃からか、ひとりの浮浪者がブルーシートで粗末なテントを作り、 
公園の雑木林に住み着くようになった。それがあれよあれよと言う間に 
増えて、今では10人近くの浮浪者たちがそこに住み着くようになった。 
 そして、浮浪者たちは公園を完全に占拠してしまう。



845 :潜水士 ◆MK4bj1r2OY [sage]投稿日:2005/10/24(月) 18:57:31 ID:cZbXTL030[2/8回(PC)]
 外灯からの盗電や水飲み場などの施設・遊具の占有は当たり前。子供 
たちが広場で遊んでいると、「うるさいぞ、何処かへ行け!」と拳を振り上 
げたり、老人がベンチで休んでいると、「俺の寝床に勝手に座るな!」と 
その場から追い出そうとしたりする。 
 公園が、その本来の機能を果たせなくなっていた。 
 このままではいけないと、自治会長と市役所の担当者が彼らの許へ出 
向き、公園からの退去や施設への入所などを説得した。 
 しかし話し合いは紛糾し、二人は浮浪者たちから罵声を浴びせられて 
しまった。しかも悪いことに、自治会長が短気を起こしてしまう。 
「今は世知辛い世の中だから、ある面ではアンタたちに同情していた。 
だからと言ってな、いつまでもこの公園に居座れると思うなよ! ルール 
を守れないのであれば、お前たちはゴミだ!、ゴミ同然だ! 
「お前たち全員、この公園からゴミ同然に放り出してやるからな!」 
 この話を聞いた時、私はこの失言が原因で大きなトラブルに発展する 
なと予感した。 
 案の定、話し合いから3日後、浮浪者たちは弁護士ふたりを連れて市 
役所と自治会長宅に押しかけて抗議行動を行った。



846 :潜水士 ◆MK4bj1r2OY [sage]投稿日:2005/10/24(月) 18:58:24 ID:cZbXTL030[3/8回(PC)]
「我々から『生存権』を奪おうとする、市役所の横暴を許すなぁー!」 
「自治会長は差別主義者です! みんなで力を合わせて、この町から彼 
を追い出しましょう!」 
 何処から用立てたのかは知らないが、拡声器を使って音も割れんばか 
りのボリュームで叫び、街頭を行く人たちにビラを配っていた。 
 もちろん、この町の人たちは自治会長の人となりを知っているので、浮 
浪者たちの主張に耳を貸すことは無かった。 
 しかし、各メディアで報道されてしまうと、事情を知らない近隣の市町村 
の人たちから「自治会長を辞めさせろ!」とのクレームの電話が殺到して 
しまった。 
 しかも、浮浪者たちは有り余る時間をフルに活用して、朝駆け・夜討ち 
の抗議行動に出る。さすがの自治会長もこれには参ってしまい、とうとう 
体調を崩して入院してしまった。 
 自治会長が入院したその日の夜、町の住人たちが会議を開いた。 
「自治会長のような信任厚い人でも、人権を盾にした抗議行動によって 
悪者に仕立てられてしまうんだ。悔しいけど、とても敵わないよ……」 
「ならば、こちらも弁護士を立てて対抗しよう。ヤツらは俺たちが公園を 
諦めるのを狙っているんだ。ヤツらに公園を渡してなるものか!」



847 :潜水士 ◆MK4bj1r2OY [sage]投稿日:2005/10/24(月) 19:01:10 ID:cZbXTL030[4/8回(PC)]
 町の人たちの中には、公園を諦めてしまう人たちもいれば、鼻息を荒く 
して対抗運動を主張する人たちもいた。 
 しかし対抗運動を主張する人たちも、やがて運動を諦めざるをえなくな 
った。彼らの子供数人が、浮浪者たちに後を付けまわされたと訴えてき 
たのだ。怯える子供たちに脅しに屈するな、耐えろとは言えない。子供が 
狙われたのでは、運動のやり様がなかった。 
 警察にも訴えてみたが、浮浪者たちのバックにいる弁護士ふたりを嫌 
って相手にしてくれなかった。警察ですら、見て見ぬ振りなのだ。 
 もう、金輪際、浮浪者たちと関わるのはよそう…… 
 そんな空気が町全体を支配してしまった。 

 その日の夕方、帰宅途中に公園のそばを通りかかると、酒盛りの声が 
また聞こえてきた。 
 公園に住み着いる浮浪者たちが、朝からずっと宴会を続けていたのだ。 
 本当に何処で手に入れたのかは知らないが、日本酒と重箱、その空箱 
と空ビンを囲んで愉しげにやっている。彼らはひがな一日、飲み食いして 
いたのだろうか?



848 :潜水士 ◆MK4bj1r2OY [sage]投稿日:2005/10/24(月) 19:02:30 ID:cZbXTL030[5/8回(PC)]
 すっかり出来上がった浮浪者たちが、大声で騒ぎ出す。 
「お詫びに黙ってこんなモンを置いておくんだから、ちょろいよな」 
「もう少し脅してやれば、まだまだいろいろ出てくるんじゃないのか?」 
「そうそう、自治会長の中学生の孫娘って結構、可愛いかったよな?」 
「女の子にココに来てもらって、お酌してもらっちゃおーかなぁ?!」 
「よぉ、よぉッ、ワカメ酒ッ! ワカメ酒でキューっと一杯ッ!」 
「その前に生えているのかどうか、確かめなきゃぁな」 
「それよりもぉ、確かめなきゃいけない大事なことがひとつぅ、あるんじゃ 
ないのぉー──ッ?!」 
「そうだそうだ、今時のガキは早ぇからな!」 
「何なら、俺たちで”貫通式”をやってもいいけどな?」 
 浮浪者たちの間で爆笑が起きた。全員、顔がいやらしくニヤついている。 
 私は思わず歯を剥き出しにして、憤ってしまった。誰もが一日の終わり 
を心静かに過ごしたいと願っている。大声でバカ騒ぎをするだけならまだ 
しも、不穏な発言をして他人を不安、不快にさせるのは本当に腹立たしい。 
 しかし、浮浪者たちに面と向かって文句はつけなかった。 
 私も、浮浪者たちとは絶対に関わりたくなかった…… 
 不甲斐ない自分に失望しつつ、再び家路につく。



849 :潜水士 ◆MK4bj1r2OY [sage]投稿日:2005/10/24(月) 19:04:26 ID:cZbXTL030[6/8回(PC)]
 しかし、『お詫びにこんなモンを置いておく』とはどういうことだ? 
 市役所がお詫びの印として、お酒や重箱を置いて行ったのか? 
 いろいろな疑問が浮んだが、しかし── 
「ただいまぁ~!」 
「おとうさん、おかえり~ぃ」 
 そんな疑問は、自宅の玄関ドアをくぐった瞬間に忘れてしまった。 
 あんな連中と、可愛い子供たちのお出迎えとは比べようも無い。 
「今日も、何か変わったことは無かったか?」 
 子供たちが元気よく首を縦に振る。私は目を細めて頷いた。 

 次の日の朝、出勤途中に公園のそばを通りかかると、ディーゼルエン 
ジンの大きな音が聞こえてきた。公園の真ん中に、ゴミ収集車が停車し 
ていたのだ。しかし、その様子が少しおかしい…… 
 本来、私の住む市のゴミ収集車は、車体カラーを青色に統一している。 
 しかし、目の前のゴミ収集車の車体カラーは黒色で、その大きさも通常 
と比べてふた回りほど大きかった。 
 4人いる清掃員も、本来は青色の作業服のはずが、黒色の作業帽と作 
業服を着て、サングラスまでかけていた。



850 :潜水士 ◆MK4bj1r2OY [sage]投稿日:2005/10/24(月) 19:06:09 ID:cZbXTL030[7/8回(PC)]
 4人の清掃員たちは収集車をテントの横に着けると、その周りにあった 
ガラクタを次々と投入口へ放り込んでいった。ディーゼルエンジンが唸り 
声を上げて、中の回転板がガラクタを破砕していく。 
 さらに4人はテントを壊し、中にあったガラクタも放り込んでいく。 
 鍋、携帯コンロ、小型テレビ、ラジオ、電気ランタン、浮浪者── 
 清掃員2人が、まったく動く様子のない浮浪者の体を両脇から抱え上 
げて、頭から投入口へ放り込んだ。ディーゼルエンジンがさらに大きな 
唸り声を上げて、中の回転板が浮浪者の体を破砕していく。 
 私はその場に立ち止まって我が目を疑ったが、公園のそばを通りか 
かった他の人たちはみんな、チラッと収集車に目を遣るだけで、避ける 
ように通り過ぎて行く。携帯電話を取り出して警察へ通報する人もいな 
ければ、清掃員を指して「人殺し!」と騒ぐ人もいない。 
 恐らく、みんな、どんな場合であろうとも、浮浪者たちとは関わりたくな 
いのだろう…… 
 浮浪者のひとりが立ち上がり、体をよじって清掃員たちに抵抗する。し 
かし彼の足許はおぼつかなく、ひとりで勝手に暴れまわった後に地面に 
倒れてしまった。倒れた後は、何故か喉を押さえてえずいていた。



851 :潜水士 ◆MK4bj1r2OY [sage]投稿日:2005/10/24(月) 19:08:41 ID:cZbXTL030[8/8回(PC)]
 清掃員2人はその浮浪者の体を両脇から抱え上げると、そのまま頭か 
ら投入口へ放り込んだ。悲鳴が聞こえたような気がしたが、ディーゼルエ 
ンジンの唸り声の方が大きくてよく判らない。 
 作業はこの後も続くようだったが、電車の時間が迫っていたのでその 
場を後にした。 
 もちろん、私も警察へ通報しなかった。 
 私の可愛い子供たちの後を付けまわして怯えさせるような卑怯者たち 
とは、絶対に関わりたくない! 

 その日の夕方、帰宅途中に公園のそばを通りかかったが、公園は静 
穏そのものだった。雑木林を覗いてみると、テントも浮浪者たちもすっか 
り片付けられていた。 
 ふと、自治会長の失言を思い出す。 
「お前たち全員、この公園からゴミ同然に放り出してやるからな!」 
 その言葉の通り、浮浪者たちは収集されてしまったのだ。