408 : 「ヒサイ村」1[] 投稿日:2006/12/31(日) 07:18:33 ID:aexaCdVPO [1/3回(携帯)]
―――雑誌の記者である私(高橋)は「旅本」の取材のために度々田舎の地域に出向きその土地のお年寄りに話を聞いたり、まだ誰にも注目されていない場所を探す仕事をしている。 

―ここは西日本の山奥の村「ヒサイ村」― 

村人は近隣の村の村人とは関わらず独自の生活を営んでいる。 
都会の街とは違い歓楽街や娯楽施設など一切存在しない静かな片田舎。 
村人の人口は過疎とは言えないが圧倒的に子供の数が多い。 
村を歩く人の中にお年寄りの姿が見えないのは何故だろう。 

私は小さな商店に立ち入った。 

商店に並ぶ品物はどれもどこか懐かしい物ばかり。 
雑誌や新聞、俗に言う「書き物」の類が一切販売されていない。 
私は商店の店員に尋ねてみた。 
「この村にはお年寄りはいないのか?」 

するとまだ未成年かと思われる青年は答えた。 

「見ればわかるだろ?この村にそんな長生きできるやつはいないよ」 

私をよそ者だと思いからかっているのだろうか。 
私は少し考え何も言わず商店から退散した。 


次に出向いたのはこの村の中心に位置する小さな駐在所。 
中にはうつむきがちの青年が座っていた。
409 : ヒサイ村2[] 投稿日:2006/12/31(日) 07:19:22 ID:aexaCdVPO [2/3回(携帯)]
「すいません」 

私が不意に声をかけると、その青年はゆっくりと振り返った。 

「この村に詳しいお年寄りの方を紹介していただけませんか?」 

私が彼にそう尋ねると、彼は小さい声で答えた。 

「残念ですがこの村に年寄りはおりません。」 

またか、といった調子で一言交わして駐在所を後にする。 
この村の住人はよそ者を敬遠しているのだろうか? 

なんとしても仕事を終えたかったので、自分の足で確かめることにした。 

村を歩いているとやはり子供ばかり目に付く。 
特に人口の多い村では無いのだが、外にいる村人は子供ばかりだ。 

村はずれへと続く山道を見つけた。 
細く舗装されていない、いわゆる獣道のような道だったが道はこれしかない。 

日が暮れる前に仕事を済ましておきたかったので迷わず進むことにした。 

2、30分程進んでいくと開けた場所に着いた。 

私は目を疑った。 

そこには一面の墓標。 
村人の人口を遙かに上回るであろう墓標の数。 
しかしどれも古く崩れかかっている物もある。 

その時背後に視線を感じた。



410 : ヒサイ村3[] 投稿日:2006/12/31(日) 07:22:49 ID:aexaCdVPO [3/3回(携帯)]
振り返ると先程駐在所で話した青年がうつろな表情で立っている。 
青年は小さく呟いている。 
「ここは危ない。あなたも病気になる。」 
「え?」私は聞き返した。 
「村の人々は流行病にやられて年寄りから次々と死んでいった。私達はこの村の病からは抜け出せない。」 

―――私はそこで気付いてしまったのだ。 

私は急いで来た道を戻り車のある場所まで走った。 
幸い日が暮れる前だったので迷うことなく村を抜け出せた。 

――数日後、職場で作業をしていると会社の古い資料を発見した。 

そこには「伝染病により閉鎖された村」について書かれていた。 
詳しい事は書かれていないが内容からするに私が立ち入った「ヒサイ村」に間違いない。 
―私はあの村に行ってから咳が止まらない。 
時々高熱や悪夢にうなされる夜もある。 

あの村に立ち入ってはならない。 

必ず何か別の、伝染病とは違う何かがあの村には存在する。 

あの村には行ってはならない。 


「被災村」には…。