41 : 伯父さんのこと[sage] 投稿日:2007/07/14(土) 03:38:22 ID:7mmEH5AD0 [1/2回(PC)]
私には大好きな伯父がいた。 
伯父は関西に住んでいたが、盆暮れには必ず帰省して、夏休みには私を何週間も預かって観光をさせてくれた。 
両親には兄弟姉妹がたくさんいたが、自分の子供と分け隔てなく扱ってくれるのはその伯父だけだった。 
家族のために一生懸命働いて、震災で電車が止まったときには毎朝十数キロ歩いてインフラ整備のために職場に通い 
病気で寝込んでからも愚痴ひとついわないで、当時婚約していた従姉(伯父の娘)の結婚式を心待ちにしていた、真面目で優しい伯父だった。 

闘病生活何年目だったか正確には忘れてしまったが、ある年の正月が明けて数週間経った頃、その伯父が亡くなった。 
連絡をもらって、両親と伯父伯母はすぐに伯父宅に向かったが、私は所用で自宅に残らざるを得なかった。 
私が伯父に会えたのは、四十九日後の納骨の日のことで、それが生涯で最後の伯父との対面だった。 
背が高くて歩くのが速くて、穏やかに私の名前を呼んでくれる伯父が 
小さな容器に入った白い骨になってしまったことを目の当たりにして、改めて涙が止まらなかった。 

私の地元では、新仏の出た家は、11~12月頃になると巳午という行事を行う。 
その名の通り巳から午の日にかけて行われる行事で、死者のために正月を祝う日というような位置づけがされている。 
うちはその年の12月初旬に、略式に身内で宴席を設けて行事を終えたが、その数日後に不思議なことが起こった。 
夢の中で自宅の電話が鳴って、受話器を取ると伯父の声がしたのだ。 
私が「突然どうしたの」と聞くと「もうすぐ帰るから電話した」と伯父は言う。「もうすぐ正月やからね」と。 
年末だったし、私は何の違和感も感じず「気をつけてね」と言って受話器を置いて、その瞬間目が覚め、妙な気分になった。 
伯父はもう電話をかけて来られるはずがないのに、どうしてそんな夢を見たのだろう。

 
42 : 伯父さんのこと[sage] 投稿日:2007/07/14(土) 03:41:24 ID:7mmEH5AD0 [2/2回(PC)]
カレンダーを確かめると、その日はその月二度目の午の日、つまりは死者にとっての正月だった。 
(巳午の日はたいていは遺族の都合に合わせて決まるが、午の日ならいつおこなってもいいとされている。) 
毎年律儀に正月に帰省していた伯父は、死んでからも正月だからと生家に帰ってきたのだろうか。 
一番血のつながりの深い母や伯父や伯母でなく自分に電話をかけてきてくれたのは 
伯父の遺体に対面できなかったことを、私が悔やんでいたことを知っていたからだろうか。 

最近、親戚から伯父に似てきたと言われる。もともと似ていた食べ物の好みや癖に加えて、伯父が時々足を運んでいた 
競馬に、急に興味を持ち始めたためだ。急に好きな馬ができて、その馬の仔たちを追いかけはじめたのは 
伯父が亡くなってから半年ほど過ぎてからのことだ。 
その馬が活躍していたのは阪神大震災の直後のことで、関西の地名を馬名に頂き、関西の競馬場で大きなレースをいくつも勝ち 
被災者だった馬主さんを元気づけたという符合まである馬だから、ひょっとしたら伯父もその馬が好きだったのかもしれない。 
その馬から勇気を貰っていたから、私に伯父のかわりにその馬を応援して欲しいと思っているのかもしれない。 
もしそんなつもりで伯父が私の興味を競馬に向かわせたのだとしても、 
それ以上に、利害関係なく何かを心から応援する楽しさを教えてくれたことに感謝したい。 
私が天寿を全うしてあの世で伯父に会うことができたら、伯父の好きだった馬の話を聞いてみたいと思う。 
そして、その馬の仔や孫がどんなふうな馬だったか、どんなに素晴らしいレースをしたか、 
これまで一度も酌み交わすことのなかった酒をいっしょに飲みながら、話をしたいと思っている。



43 : 本当にあった怖い名無し[sage] 投稿日:2007/07/14(土) 04:07:14 ID:5X0rV5qQ0 [1/1回(PC)]
>>41-42 
伯父さんとイイ酒が飲めると良いねッ… 
( ;∀;) イイハナシダー