304 : 深夜のドライブ 3[sage] 投稿日:2009/06/23(火) 00:41:18 ID:bn0ryByu0 [3/5回(PC)]

続き 

俺が


「…もしかして自殺?」


と独り言のように呟くと、なおきが


「近くに車とかなかったぞ、どうやって 
こんなとこまで来るんだよ、置き去りにされたとかか?」


などとあーだこうだ話していたのだが、 
ふと気付くとひろしが全く会話に入ってこない事に気が付いた。 

俺がひろしに


「お前はどう思う?」


と聞いたのだが、ひろしは林の中の一点を凝視していて 
全く返事をしない。なおきが


「ひろし?」


と聞くと、ひろしは真っ青な顔で林の中を指差した。 

その方向を見てみると、背の低い木の枝や草が折り重なっていて良く見えないが、7~8m 
くらい先に明らかに人がいる。 
更に良く見てみると、女の人のようだ。 

年は10代後半から20代前半くらい、服装も普通で何もおかしなところは無い。 
強いて言えば、髪の毛が結構長いのだが、それが顔にかかっていて表情は全く読み取れない。 

なおきが


「なんだ。やっぱ置き去りにされたんじゃね?可哀想だから家まで送ってやるか」


と林の中に足を踏み入れようとすると、ひろしが


「やめろ!」


と突然大きな声を出した。 

なおきはそれを意に介さず女の人を呼んだりしていたのだが、俺はその女の人がおかしい事に 
気が付いた。 
髪の毛が前に垂れ下がっているから顔が見えないのかと思ったがそうではなかった。 

続く
 
305 : 深夜のドライブ 4[sage] 投稿日:2009/06/23(火) 00:42:05 ID:bn0ryByu0 [4/5回(PC)]

続き 

首が180度逆を向いていた。 
俺がその事に気付いたとき、その女がなおきの呼び声に答えるかのように振り向いた。 
正確には


「背中をこちらに向けた」 


暗くて目は見えないが、その女の口元は微笑むように笑っている。 
流石になおきも女の異常な姿に気付いたらしく、3人とも暫らく黙ってしまった。 
というより動けなかった。 

沈黙していたのは10秒もなかったと思う。 
突然ひろしが俺となおきの手を掴んで車の方へ走り出した。 
ひろしに引っ張られ走る俺は、何となく後ろを振り向いた。 
するとその女が微笑んだまま後ろ歩きで草や木の枝をかき分けながらこちらへ 
向かってくるのが見えた。 

車に大急ぎで乗り込み、俺が


「おい、追ってきてるぞ!」


と2人に言いながら岩の方を見たのだが、その女が見えない。俺は


「あれ?追ってきてないのか?」


と少し安心していると、必死でエンジンをかけていたなおきが突然


「うわあああああああ!」


と叫び声を上げた。 

なおきのほうを見ると、運転席側の窓にマニキュアをした


「真っ白い手の甲」


が見えていて、それがゆらゆらと揺れている。 
ひろしとおれはなおきに


「早く車動かせよ、洒落になんねーよ!」


とせかし、なおきは物凄い勢いで 
車をバックさせて元来た道へ戻り始めた。 

林道から舗装されたさっきの道に戻り、俺とひろしが林道の方を見てみたが、あの女は 
追って来ていない。 
少し落ち着いた俺達3人はそれからほぼ無言だった。 
俺は何かあの女の話をすると現れそうで怖かったのだが、なおきとひろしも同じ心境だった 
のだと思う。 

続く



306 : 深夜のドライブ 5[sage] 投稿日:2009/06/23(火) 00:42:58 ID:bn0ryByu0 [5/5回(PC)]

続き 

先ほど降りたインターチェンジから高速にのり、そこで俺は


「とにかく明るいところにいたい」


と、途中にあった結構大きいドライブインに入る事を2人に提案して、2人ともその方が良いと 
同意してくれた。 

ドライブインに入ると、時間はもう3時頃、人気は殆どなく駐車場に仮眠中のトラックが 
数台止まっているだけだったが、俺達は明るいところにこれたためホッとして急に緊張 
の糸が切れた。 

自販機で暖かい飲み物を買い、ドライブイン内のベンチでみんな無言で各々に飲み物を 
飲んでいると、自販機のある通路の方から


「ふふ…」


と女の人が笑う声が聞こえてきた。3人とも声に一瞬


「ビクッ」


としたが、まさかな…と3人で


「気のせいである事」


を確認するために自販機のある通路へと向かった。 

そこには「あの女」がいた。 

体が正面を向いていたため顔は見えない。 
本来後頭部がある後ろ側から、


「ふふふ」


とさっきの笑い声が聞こえてくる。 
俺達はパニックになり半狂乱で車に乗り込むと、そのまま猛スピードで車を飛ばし地元へ帰った。 

その後俺達は各自進学し、俺は地元とは別の場所で一人暮らしを始めた。 
あれ以来、実害は無いが時々「あの女」が視界の端に見える時がある。 

ひろしとなおきとは今でもよく連絡を取り合うが、2人ともあの日の事は一切口に出さないため、 
2人にも同じ物がみえているのかはわからない。 


俺は「あの女」が視界の端に見えるたびに気のせいだと思うようにしている。 


終わり