601 : 本当にあった怖い名無し[] 投稿日:2010/02/14(日) 10:29:09 ID:AM8NMZqr0 [1/3回(PC)]
俺の体験した話をひとつ。 

 これは、岩手県遠野市に旅行に行った時のこと。 
 時間は黄昏時。とある民宿を探し、俺は山の中を歩いてた。 
 山の中……って言っても、舗装された広い道路があって、脇には公衆便所や民家がポツポツとあった。 
 で、そんな民家の側に、一人のお婆さんがいたんだよな。そのお婆さん見つけた時、正直ラッキーって思ったさ。丁度道がわからなくなってたからな。 
 それで、渡りに船と思って、お婆さんに道を聞いたら、 

「そこの坂をね、まっすぐ行くんだよ」 

 俺は驚いた。なぜかっていうと、道路の方ではなく、人一人通るのがやっとの急な坂を指差しているのんだから。 
 俺は間違いだと思って聞き返した。 

 「ここをずーっとですか?」 
 「ああ、ここをずーっと」 

 間違いない。お婆さんは、確かに細い坂を指差している。 
 俺は観念して、そこを上っていった。

 
602 : 本当にあった怖い名無し[] 投稿日:2010/02/14(日) 10:37:19 ID:AM8NMZqr0 [2/3回(PC)]
 辺りは近代的な道路とは無縁の山道。雨が降ったらしく、足下の土からは、ぷぅんと泥や草の香りが漂ってくる。 
 聞こえる音といえば蛙の声だけで、まさに、遠野物語そのものの世界だった。 
 と、突然! 

――プァンッッ!! 

 耳を貫くような電車の音がした。まるで、すぐ背後で聞こえるかのようにはっきりと。 
 神経過敏になってたこともあり、俺は驚きのあまり、ビクッと体を震わせてしまう。 

 「なんだ、電車かよ」 

 思わず声に出す。そうでもしないと、心が落ち着かなかったから。 

 一人というのが、これほど心細いものだとは思わなかった。 
 正直、妖怪が出るかってよりも、毒蛇や熊がでないかって怯えてた。おばけはいるかわからないけど、連中は確実にいるから。 
 とにかく、山の中を、一歩一歩、道なりに進んでいく。 
 蒸し暑く、汗はだらだら。背中と脇には、重い荷物を負っているもんだから、どんどん体力は奪われていく。 
 そのまま道を行ったとき、目の前に細くて長いものがドタッと! 

――蛇だ!! 

 咄嗟に思った。 
 恥ずかしい話、叫びながら逆走していった。そんで、息も絶え絶えに民宿に電話したんだよな。 
 そしたら、なんて言ったと思う?



603 : 本当にあった怖い名無し[] 投稿日:2010/02/14(日) 10:47:28 ID:AM8NMZqr0 [3/3回(PC)]
 「全然違う道ですよ」 

 こう言うじゃないか。 
 やっぱり、お婆さんの教えた道は間違えていたのだ。 

 「あのばばあっ!!」 

 それから、俺はお婆さんの悪口を言いながら、民宿へと向かっていった。 
(ちなみに、あの長いやつはミミズだった。どんだけチキンよ OTL) 


 その後、民宿の主人から信じられない話を聞いた。 
 話よればこの山には、悪い狐がよく出たそうで、昔、よくいたずらを繰り返していたという。 
 以前、ここを予約していた人も、化かされたそうだ。 
(なんでも、芋畑を川に見せられたとか?) 

 その話を聞いても、俺は半信半疑だった。 
 だって、そうだろ? 狐が人を化かすなんて、小学生じゃあるまいし。 
 けど、布団に入った時、ふと思い出して「あっ」って思った。 

――そういえば、あんなところに電車は通ってなかった。 
――じゃあ、あの音は? 

 次の日、民宿の主人に聞いても、やっぱりあの辺りには電車なんて走ってなかったそうだ。 

 明治時代、狸が列車に化けたという話がある。 
 迷信として葬られた妖怪達も、深い山の中で、今も生き残っていると言うのだろうか? 
 とにもかくにも、こうして俺は、遠野の妖怪に手荒い歓迎を受けたわけだ。