127 : 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ [sage] 投稿日:2010/04/15(木) 20:31:14 ID:zrX5pedS0 [1/2回(PC)]
友人の話。 

渓流で一人釣りをしていると、背後から声を掛けられた。 
「何しとるのかね?」 
鮎を釣ってるんだ、そう答えながら振り向くと、そこには異様なモノがいた。 

身体は赤犬だったが、首から上の顔は老爺のものだった。 
毛並みは綺麗にしてあり、きちんとお座りをしている。 

驚いてポカンとしていると、人面犬は再び口を開いた。 
「鮎か。久しく食っておらんの」 

その言葉を聞いて、何故か恐怖より先に親近感が生まれたという。 
釣り上げた鮎を人面犬の前に置いてやり、良ければどうぞと勧めてみた。 

「や、これはすまんの。ありがとう」 
犬は感謝すること頻りで、大人しく鮎を喰らい始めた。 
器用に前足で押さえながら、中々に上品な食べ振りだったという。 
生で良いのかと問うたところ、生が良いのだと答える。 

「薄味が好みでの。人の味付けはちと合わん」 
そう言ってカラカラと笑った。 

 
128 : 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ [sage] 投稿日:2010/04/15(木) 20:32:02 ID:zrX5pedS0 [2/2回(PC)]
(続き) 
人間の顔してるのに?と彼がおかしそうに聞くと、 
「そうよなぁ、おかしいわなぁ」とこれまた笑ってのける。 

結局その日の午後一杯、犬は彼の横でゴロゴロとしていた。 
他愛もない会話をしながら、時折お裾分けの鮎を齧って過ごす。 
犬は山や沢のことに色々と詳しく、感心させられる話題もあったらしい。 
彼曰く、中々に楽しい一時だったそうだ。 

日没が近付き帰り支度を始めると、犬が別れの言葉を口にする。 
「楽しかったよ。また来い」 
自分も楽しかったよと返し、別れを告げてから山を下りた。 

彼はその後も、何度かそのポイントへ出掛けているのだが、あれ以来 
あの人面犬とは出会えていないという。 

元気にしていたら良いんだけどな、そう言って彼は微笑んだ。