718 : 1/5 便乗者 ◆iWdAqLU3ds [sage] 投稿日:2010/11/12(金) 20:57:52 ID:iJpxplwB0 [1/7回(PC)]
『手拍子』
私が以前住んでいた地元は、住宅街あり、田んぼあり、森ありコンビニありの中途半端な田舎でした。
私の家は住宅街の方にあり、その住宅街地区では昼夜問わず、『手拍子』の音が町を徘徊していました。
パチ、パチ、パチ、パチ、
という断続的なその音は、初めて聞いたのがいつだったかもわからないほど以前から聞こえていたもので、
いつの間にか聞こえるのが普通のことのようになっていて、私はそれを人か人ならざるものかなどで区別せず、
聞く度にただ漠然と「あぁ、いるなぁ」と、ぼんやり思うだけになっていました。
近所の人や友人も以前から聞いていて、その誰もが今までに正体を見たことが無く、
そしてその誰もが「あれって何だろうね」と首をかしげる、謎の『手拍子』。
自分が町を歩いていても、その『手拍子』の主とばったりと会うようなこともないのです。
犬の散歩をしていると、家々を挟んだ一本隣の通りを通り過ぎる音が聞こえてきたり……、
夜に部屋で、涼むために窓を開けていると、宵闇の向こうから何処からともなく彷徨うように聞こえてきたり……。
救急車などのサイレンが聞こえるけど何処を走っているかわからない。という経験はある方も多いと思います。
それが『手拍子』の音になったような感覚。だけどサイレンなんかより、多分もっと近くを徘徊する音。
きっと知らない間に、何度か私の家の前だって通り過ぎていたのかもしれません。
719 : 2/5 便乗者 ◆iWdAqLU3ds [sage] 投稿日:2010/11/12(金) 21:02:21 ID:iJpxplwB0 [2/7回(PC)]
さて、いつしかこの町で当たり前になっていた『手拍子』に、一度だけおびやかされた経験があります。
田んぼ地区との境目あたりにあるスーパーで買い物をした帰り道のこと。
夏で、夕方なのに日もまだ落ちていない、まだまだ明るい住宅街の中。西の方へと私がのんびり歩いていると……。
パチ、パチ、パチ、パチ、
あぁ、またかぁ……。
どうやら一つ南の通りを、私とは反対の東の方向に、すれ違うように進んでいる様子。
その頃の私の中では、彼もしくは彼女は人間であると仮定されており(それもこの日まででしたが)、
まぁキチ●イなら仕方ない ←本当の意味で。と思っていつもどおり聞き流そうかと思った時、
ほんの、ほんの思い付きで、
「そういえば、返事するとどうなるんだろう……?」
という考えが頭を過ぎったのです。
相変わらず『手拍子』の音は、絶え間なく断続的に鳴り、今まさに丁度私とすれ違うような位置関係にいるようです。
私は怖いもの見たさというか好奇心を抑えきれず、期待と不安を胸に、持っていた買い物袋を手首に掛け直しました。
そして空になった両手を自分の胸の前に構えます。一つ南から聞こえる、あの音……。
パチ、パチ、パチ、パチ、
それに答えるかのように、いえ、からかうように、私は自らの両手を打ち鳴らしました。
パチンッ、パチンッ
720 : 3/5 便乗者 ◆iWdAqLU3ds [sage] 投稿日:2010/11/12(金) 21:09:20 ID:iJpxplwB0 [3/7回(PC)]
……
音が、止んだ……?
と思った途端、
パチパチパチパチパチパチパチパチ!
一時停止した『手拍子』はすぐさま速さを増して再度鳴り響き、今までの自らの進行方向へと再び進み始めたのです。
そして速くなったのは音だけでなく、その進行速度も。
『手拍子』は一つ南の通りを、あっという間に東に走り去って行きました。そして、十字路を、左折して来る気配。
「あ、こっちに回り込んで来る……?」
思わず振り返ると、音はものすごい勢いで北上し、ここから見えるあの交差点から今にも姿を現そうと……。
その瞬間私は前を向き直り、そのまま家の方へと猛ダッシュしました。直後、背後のあの交差点を何かが曲がって来る気配。
2つの角をコの時型に回り込み、奴は既に私と同じ通りにいる。振り向いたら、たぶんいる。
振り向けない。やめておけば良かった。
『手拍子』の正体はきっと私のすぐ背後にまで迫って来ているのです。そしてそれは人間でないのでは。足音が、しない。
足音はしないのに、手を叩く音だけが大きくなってきている。距離が縮まってきている……。
あぁやばい!
パチパチパチパチパチパチパチパチ!!
本当にやばい! 追い付かれる!
やめておけば良かった!
その瞬間、
バシンッ!!
張り裂けるような凄まじい音と、背中に激痛。そして突然の静寂……。
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