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637 : 本当にあった怖い名無し[sage] 投稿日:2011/09/04(日) 15:37:53.74 ID:Fz2g+GSN0 [1/7回(PC)]
 僕は幼い頃から、人には見えないものが見えていた・・・。 
なんて、まあよく物語の冒頭で見るけど、今から語る話は、僕が中学生だった頃の話だ。 
確かその時はお盆で、僕の家には沢山の親戚の人たちが集まっていた。母さん方の親戚らしい。 
一回も会った記憶が無い人ばかりで、これじゃやってらんない・・・という訳で、 
僕は部屋にこもって親戚が帰るのを待つことにした。 
  
音楽を聴きながら、漫画を読む。至福の時だ。 
(闇遊戯まじぱねぇ・・・) 
なんて興奮していたら、部屋のドアから急に母さんが入ってきた。その横には、保育園くらいの女の子が居た。 
「ねえ、この子、皆が帰るまで遊んであげて」 
僕は子供がとても苦手だったけど、鬼より怖い母さんの言いつけは守らないわけにはいかなかった。 
「分かった、いいよ」と言うと、女の子は僕の部屋に入ってくる。 
「じゃあね、まかせたよ」母さんは部屋を後にした。 

「何してあそぼうか・・・あ、その人形で遊ぶか?」 
女の子は少女をかたどった人形を持っていた。ちょうど大きさはメルちゃんくらい(分かる?)で、 
4・5歳の女の子が持つと、少し大きく見えた。 
別におもちゃ会社の物ではなく、見た目はね、少し手作り風の普通の人形だった。見た目はね。 


640 : 本当にあった怖い名無し[sage] 投稿日:2011/09/04(日) 15:43:45.02 ID:Fz2g+GSN0 [2/7回(PC)]
続き  

 冒頭で述べた通り、霊感のおかげか、女の子の持っている人形がとてもマズイものだと一目で分かった。 
でもまあ、今日一日だけの出会いだし、たいしたとこはない・・・とタカをくくってしまった。それがいけなかった。 

「あのね、私がお母さん。この子は子供ね」 
なるほど・・・おままごとね。僕は妹の部屋から適当な人形や小道具を持ってくると、おままごとに励んだ。 
ひとしきり遊んだところで、夜になると女の子は帰っていった。 
  
母さんはドタバタと忙しかったせいか、ぐったりしていたので、一人で夕飯を済ませ、風呂に入り、 
僕は部屋に戻って漫画の続きをよむことにした。 
 (オベリスク~オシリウス~・・・ん?) 
部屋に入るとベッドの上に、あの、人形が横たわっていた。これは非常にやばい。 
すぐさま持ち出し、母さんのところへ行った。 
「ねえ、これ、あの女の子が忘れてったんだけど」 
「ええ~!?うーん、分かった。連絡しておくわ」 
良かった・・・とほっとしていると、母さんは「でもそれ、不気味だから持っててよ」と言い、 
人形は突き返されてしまった。 

ぶつぶつを文句を言いながら部屋に戻る。なんか嫌な予感がするし、少し早かったけど、寝ることにした。 

天井を仰ぐ。蒸し暑くて寝られたもんじゃなかった。 
僕はエアコンをつけようと、机の上にあったリモコンを取るために、ベッドから起き上がった。ふいに、違和感に気づいた。



642 : 本当にあった怖い名無し[sage] 投稿日:2011/09/04(日) 15:46:15.10 ID:Fz2g+GSN0 [3/7回(PC)]
(・・・誰かに見られているのか) 
多分、視線の主はベランダにつながるカーテンの向こうに居る。 
別に、よくあることだと自分に言い聞かせ、平常心を保ってカーテンを少し開けて覗いた。髪の長い、顔が青白い女だった。 
大した代物じゃないと判断した僕は、ベランダに出て「オル゛アァ!!」と叫んだ。大抵のものは気力で押しのける。これに限る。 
予想通りに女が消えるのを確認した僕は、やっと眠りにつける安心で、エアコンをつけることを忘れたまま、ベッドへと入った。 

これで終わりと思ったのが間違いだった。その日を境に、毎日毎日女はベランダに立ち不気味な視線を僕に向けるのだった。 
原因は明らかにあの人形なわけで、早く持って帰ってくれよ・・・と願うものの、日に日に女はベランダから窓までの距離を詰めてくる。 
そして金曜日の夜にはめでたくも、べったりと顔を窓に付けて、カリカリをガラスを引っ掻くわ、「返して・・・返して・・・」なんて呟いてくるわで、 
結果的に僕は寝不足になってしまった。 

 土曜日の朝、寝不足で死んでしまうのではないか・・・と危険を感じた僕は、近所にある馴染みの寺にかけこむことにした。 
両手じゃ数えきれない程に世話になってきた寺だ。そこには僕が破戒僧、と言わしめる人物が居る



644 : 本当にあった怖い名無し[sage] 投稿日:2011/09/04(日) 15:47:50.51 ID:Fz2g+GSN0 [4/7回(PC)]
「よお、久しぶり。部活と宿題で死んでるのかと」 
この人だ。また宿題なんて嫌なことを思い出させやがって・・・と言おうと思ったが、そんな暇はない。 

「お盆にね、親戚が集まったんですけど、まあ色々あって人形に酷い目に遭わされてるんですよ」 
「ふーん、で、その人形は?」 
ああ、しまった・・・と思った。うっかり問題の人形を忘れてしまったのだ。 
僕はけっこう間抜けで、こういうことがよくあった。しかし、家に帰って持ってくるのは面倒くさい。 

「別に構わんよ。大体予想はつく」 
くっくっく・・・とむかつく笑い方をする相手には腹が立ったが、この人にはそんな態度は取ってはいけない。 

「なにさ、まあ詳しいことは事務所で聞こうじゃないか」 
 その事務所というのは、ちゃんと寺の中にある。どこの寺でもそうなのかは知らないが、経理の為の場所や生活スペースのような場所がある。 
本堂とはまた違ったところに建てられたそこは、いつも僕が坊主と雑談をしたり、まあ、色んなことに使う、いつもの建物なのだ。



645 : 本当にあった怖い名無し[sage] 投稿日:2011/09/04(日) 15:49:32.40 ID:Fz2g+GSN0 [5/7回(PC)]
 事務所に入ると、適当な椅子に座り、坊主と向かい合った。 
「また美人なのを連れてきたな、お前は」 
「ええ、今後ろに居るんですか?」 
「いや、お前んちだけど」 
なんで人の家が見えるんだよ・・・なんて突っ込みは、この人には無用だ。 
普段、何をやっているのか見当もつかないのだから。 

「単刀直入に、どうすればいいですかね?」 
「捨てたらいいだろ」 
「それくらいお前だって分かるだろう・・・」みたいな顔をされたが、そういうわけにもいかない。 

「いや、僕のじゃないですから。女の子のなんだから、勝手に燃やしたりするのは気が引けるというか・・・」 
「もう返せばいいじゃないか、そうしたら消える」 
「いや、その女の子の身に危険が・・・」 
「その子、どうせお前の母親方の子だろう」 
「そうですけど」 
「なら大丈夫だ。お前が我慢すればいい」 
ええ・・・と困り果てた僕に観念したのか、坊主は「はいはい、俺がなんとかしておくから、子供は帰って宿題しな」と言うと、 
面倒くさそうに禿げた頭を掻きながら、本堂へと繋がる廊下へ消えた。



: 本当にあった怖い名無し[sage] 投稿日:2011/09/04(日) 15:50:52.72 ID:Fz2g+GSN0 [6/7回(PC)]
「ちょ、もう終わりですか」 
「終わり終わり、お経を唱えなくちゃね~」 
なんて、いけしゃあしゃあと言う声が向こうから聞こえてきた。 
取りつく島もないってか・・・と諦めた僕は、家に戻った。まあ、あの様子なら大丈夫なのか。 

(ただいま~) 
しんなりとリビングへ行くと、父さんが横になってテレビを見ていた。 

「さっき、お前の部屋にあった人形、○○さんが持って帰ったよ」 
僕の身にあったことも知らないで、もののついでに言う父さんは眠たそうだった。 
それからはと言うものの、まるで心霊騒ぎなんて端から無かったように、なんともない日々が過ぎた。 
まあ、幽霊なんてこんなものか・・・と構えた僕が、宿題三昧の、この夏最後の3日間を過ごすことになるのは、まだ先の話。