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俺は後ずさろうとしたけど体が硬直したように動かない 
前後に小刻みに動いていた婆さんの頭の揺れが大きくなって、俺のほうを向いてがくんと倒れた 
首の骨が折れたのでなければありえないような動きで、俺はもろに婆さんの顔を見てしまった 
しわだらけの顔は真っ白で、両目のまぶたが赤い 
逆さまの頭で俺のほうを見すえて、婆さんは「・・・連れていっておくれよ・・・」といった 
俺はうわっと思ったがやっぱり体が動かない 固まっていたら 
固まっていたら一人の女の人がさんがエレベーターを出てきびきびした足どりでこっちに歩いてくる 
30代前半くらいで白衣は着ているもののこの病院の看護師の制服ではないので女医さんかもしれない 
その人は車いすの正面にくると婆さんの肩に手を置いて、もう片方の手でゆっくり婆さんの頭を起こした 
そして俺のほうを見て目配せをすると「大丈夫ですよ」とささやいた 
俺にいったのか婆さんにいったのかわからなかった

すると婆さんが動物のような速い動きでその人の腕に噛みついた 
その人はちょっと驚いたような顔をしたものの噛みつかれた腕はそのままにして 
もう一方の手で白衣のポケットからすごく長い数珠をとりだして婆さんの頭の上で何度も振った 
すると婆さんの姿が何というかぼんやり薄くなったように見えた 
女の人は噛まれた腕をそっとはずすと 
俺に向かって「病室に戻りなさい、こんな時間に出歩いてたらだめでしょう」 
強い口調でいうと、くったりと頭を垂れた婆さんの車いすを押して廊下をまっすぐ進んでいった 

俺はエレベーターで病室まで戻って今見たものは何だろうと考えていたがいつの間にか眠ってしまった 
次の朝、この病室担当の若い看護師さんが体温を計りにきたときにこの話をすると 
「・・・珍しいものを見たわね、それは○○さんでしょう この病院に夜だけ来てもらってる方なの 
・・・他の患者さんにはこの話はしないでね」といわれた  
それ以上の詳しい話はしてくれなかった 
それ以後退院するまで夜中に出歩くのはやめた 
それにしても幽霊だとしても車いすも幽霊になるものなのか今だに不思議