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その子は、自分にはまったく気が付かないみたいで 
両手にままごとのおもちゃみたいなものを持ってトコトコと歩いてゆく 
何をするんだと思って見ていると、 
それを道路の端っこに広げて、そのまま道路で遊びだしてしまった 
うわっ、危ないだろ!と思っていたんだが 
出て行くと見つかって、また遊ぼう遊ぼうと捕まってしまう 
それに、めったに車の通る道でもない 
う~ん…と思いながらも、そのまま隠れていた 
すると、向こうから一台のトラックが走ってきたんだ 
白い軽トラだったと思う 

どうやら運転手はその子に気づいている感じじゃない 
まっすぐに走ってくる 
立ち上がって、危ない!と声を掛けようとしたんだ 
なのに、どうしてか自分の身体が動かない 
声も出そうとしているのに、あうあうと口が動くばかりで 
まったく声が出ない 
その子は気づかないのか、まだ遊んでいる 
車はどんどん近づいてくる 

そして、本当に車がすぐ傍まで来たとき 
その子はようやく顔を上げて車のほうを見た 

ぶつかる! 
そう思って顔を背けた瞬間 
自分の名を呼ぶ声にはっとした 
気が付くと、大人たちが周りを囲んでいて 
自分は母の膝枕で横になっていた 
「よかったなー」 
周りの大人たちは安堵の表情を浮かべていた 
何がなんだかわからない自分に 
「階段から落ちたんやで」と親戚のおばちゃんが教えてくれた 
おでこには冷たいタオルがあてがわれていて 
よほど心配していたのか、母は涙ぐんでいた