風呂の、追い焚きとか温度調節を遠隔でできるボタンみたいなの、壁についてない?風呂にあるのと似てるけどちょっと違う。
うちの場合、それがキッチンの近くにあるんだよ。いつもそれ使ってキッチンから風呂の追い焚きとかしてた。
でも、それが最近誤作動するようになったんだ
誰も触ってないのに、「ピッ…オフロノオンドヲチョウセツデキマス…ピッ」てな感じでさ
まぁかなり使ってたしなーと思ったし直すのもめんどいし、ほっとくことにした。母さんは水道代とか電気代がもったいないって渋い顔してたけど、流石自分の親というべきか直さないでほっといてた。
3日くらい前だったかな
昼寝たくさんしちゃって、夜に全く眠れなかったんだ。しばらく布団の上でごろごろしてたんだけど、全然眠くならないし、とりあえずお茶かなんか飲もうと思って二階の寝室から一階に降りた。一時半くらいだった気がする。
ごめん言ってなかったけど、そのボタンがあるキッチンはうちの一階にあるんだ。
そんでキッチンに行って、冷蔵庫開けて生茶出して飲んだ。いま考えるとカフェインとか入ってるから飲んじゃダメだったかもしんない。
でもそのときはそんなこと頭になくて、使ったコップを片付けて生茶を冷蔵庫に戻した。
そのときだ。
背後から、「ピッ…フロノ…ピピッ」ていうあの無機質なボタンの音が聞こえてきたんだよね。
昼に聞いてもなんも思わないのに、ひとりだったし、電気は流しの真上の裸電球しかつけてなくて暗かったし、すごいおっきい音に聞こえてそれはもうびっくりした。
それでなんか怖くなっちゃって、足早にキッチンを出てボタンの横を通り過ぎた。
そのまま2階に行って布団に入れば良かったのに、なんか気になってちょっと後ろ振り返っちゃったんだ。ボタンのほう。
そしたら最初はボタンは見えなかった。影になってて、暗くて見えないんだと思った。
でもね、ちょっと目を凝らしたら、見えちゃったんだ。
影じゃなかった。いや、影だったのかも知れないけど…なんて言えばいいんだろう。
真っ黒いトカゲみたいなやつが、壁にべたーっと張りついてた。それの下にあったからボタンが見えなかったんだな、たぶん。
さっきまで何も無かったのに急に現れたからとっさに反応できなくて、ただソイツを凝視してた。
何秒たったかな、突然そのトカゲの頭っぽいところが持ち上がったんだ。その下からちらっと白いプラスチックのボタンが見えたのを覚えてる。
次の瞬間、ソイツが壁に向かって頭突きを始めた。いやほんとにソイツがトカゲなら顎付きと言うべきかもしれない。
兎に角、ソイツは自分の頭部を壁にたたきつけてた。そして、ソイツが頭突きする度に、あの「ピッ…ピピッ」て音が聴こえた。あのおとは、アイツの頭部がボタンにぶつかって出てたんだ。たぶん。そうとしか思えない。
何だか分かんなかったけどすごい怖くて、ダッシュで階段駆け上がって自分の布団に飛びこんだ。それで震えてるうちに寝ちゃったらしい、気づいたら朝だった。
恐る恐る一階に降りてみたけどもうアイツはいなくて、母さんが作ってた朝ごはんの匂いが漂ってくるだけだった。
長々と書いておいてオチがなくてごめん。あれは何だったのかは分かんないままだ。ボタンは今もときどきピピッて鳴る。
たぶん、もう夜にキッチンには行けない。