早期発見だったので大事には至らないということだったが、度重なる検査でストレスや疲労が溜まってそうだったので、田舎の山奥にある別荘に一家揃って療養に行くことにした。
現地に着いた頃には既に日も暮れかかっていた。
長い間、狭い車内にいたせいで、皆疲れていたので手早く晩飯を済ませ夜9時ぐらいには皆、床に就いた。
事が起きたのは深夜だった。
何時頃だったかは分からないが、喉が渇いたので水でも飲もうと身体を起こした。
横をみると母はぐっすりと眠っている。
ふと、その枕元に黒い何かがあるのに気付いた。
暗闇にまだ目が慣れない中、それをぼんやりと見つめながらリュックサックか何かだろうと思った。
しかし、よくよく考えてみると母はリュックサックなんて使わないし、第一寝る前母の枕元にリュックサックなんて誰も置いていない。
だんだん目が慣れてくると、その黒い何かがリュックサックの影などではなく、体育座りをした人間の形の何かだと気付いてしまった。
瞬間、背中がサーッと寒くなってやけに自分の心臓の音が脳に響き始めた。
今まで霊的な体験をなに一つしたことのない俺は焦りに焦った末、喉の渇きを我慢して狸寝入りを決め込んだ。
何時の間にか寝てしまっていたようで、目を開けると窓から朝日が差し込んでいた。
東京に帰ってから母にこの話をしたところ
「私のこと連れて行こうとしてたのかな」
とか言って笑っていたが、俺は今でも気が気でない。