62 : ThunderBird2號[sage] 投稿日:2009/08/13(木) 10:38:28 ID:6NihQUSH0 [1/3回(PC)]
知人の知り合いの話
彼は一人で夜の高速を飛ばしていた。既に日付も変わる頃で、眠気防止にはかなり
気を使っていた。この時間ともなると、その高速道路は交通量がぱったりと途絶える。
ましてその付近は直線主体で、不埒な輩が最○速アタックに使っている、ともっぱら
評判の一帯だった。そんな腕も無く蛮勇だけで突っ込んでくる連中にカマを掘られる
のも馬鹿らしく、あまりチンタラと走っても居られなかった。
辺鄙な山奥の直線道路、といえばトンネルだ。夜の息苦しくなるような闇の中では、
明々と水銀灯に照らされているトンネルの方が広々と感じてほっとするな、そんな
事を考えながらトンネルをいくつか通過した時の事だった。
トンネルの左手の壁からいきなり男が飛び出してきたのだ。
「轢いたっ!」 ガガガガガッ、とABSが動作し車はぎりぎり姿勢を崩さずに停まった。
幸い辺りには車一台、居なかったので、連鎖事故は避けられた。彼はトンネルの左壁
ぎりぎりに車を停めハザードを点けるとすぐに事故現場へと駆け戻った。
僅か百メートル程の距離の筈だったが、日頃からの運動不足を誇る彼にとって、結構
息の上がる運動となった。
ところが事故現場に戻った筈の彼は首をひねった。けが人どころか血痕すら見つから
ないのだ。「もっと手前で轢いちまってたのか?」、そう思ってどんどん探し回った彼は
いつしかトンネル入口まで来てしまった。トンネルの中、事故現場を探してうろうろ歩く
彼の横を2、3台の車が走りすぎた。1台は気を使ってかクラクションまで鳴らした。
(1/3)
63 : ThunderBird2號[sage] 投稿日:2009/08/13(木) 10:39:03 ID:6NihQUSH0 [2/3回(PC)]
一段高くなっている路側帯をとぼとぼ歩いて帰りながらも、彼は車線を丹念に探して
いた。そこには乾いたアスファルトがあるだけであった。
「そういえば全く衝撃が無かったな。」
制限速度+αで走っている車に、人一人ぶつかって衝撃が無いはずはない。自分の
車に戻り彼はフロントを念入りに点検したが、「無数の虫の死骸があるだけ」 だった。
「それにしても…」
彼の瞳には、灰色の背広を着たサラリーマンがふらふらと飛び出してきた姿が焼き付
いていた。こんな山奥、この深夜の時間帯に、それはどう考えても異質な風体であった。
何事も無いのに警察を呼ぶ訳にもいかず、交通量が少ないとはいえトンネルの真中に
車を停めておくのも危険な話だ。彼はそう自分に言い聞かせながら、再度キーを回して
車を走らせ始めた。カーブも少なくトンネルのみが断続する区間を、トンネル2、3個走り
過ごした後の、あるトンネルの中程で再びソレは現れた。
ランドセルを背負った女の子が右の壁から現れ、こちらも見ずに走って横切ろうとした。
再び彼はその子を 「轢いて」 しまった。
ガーーーガッ、再びABSが作動した。彼は車を停めずにそのまま再加速し、トンネルを
出た所にある道幅の広くなった所に車を停めた。
「また衝撃無しだった…。」
それでも確認に行かなければいけない。彼はトンネルの路側帯をとぼとぼと歩き、何も
見つけられないまま、トンネル入り口まで来てしまった。通り過ぎた他の車から見れば、
彼の方が幽霊に見えただろう。
「まったくなんだったんだ?」
自分の車にひき返しながら、彼はトンネルの壁をチェックしていた。右側、つまり追越し
車線側は一面の壁にところどころ非常灯が灯っているだけで、人が出入りしたり隠れたり
できる所はどこにも無かった。「なんの罰ゲームだよ!ったく!」 思わず愚痴がこぼれる。
(2/3)
64 : ThunderBird2號[sage] 投稿日:2009/08/13(木) 10:39:41 ID:6NihQUSH0 [3/3回(PC)]
(3/3)
訳が判らないまま彼は再度車を発進させた。また、トンネルを何個かすぎた所で読者の
御想像通り、彼はまた 「轢いて」 しまった。
まだよちよち歩きの子供が左の壁からとことこと出てきたのだ。
再びABSのお世話になった彼は、またトンネルの出口に車を停め、もはや義務感のみで
トンネルを探し始めた。 「感触も無かったな、今度も…。」
それでも万が一の事を考えると点検だけはしておかねばならなかった。トンネルを往復し
戻る際に道の両側の壁をチェックしたのも前と同じ。そこには子供一人隠れるところなど
どこにも無かった。
背広姿のサラリーマン、ランドセルの女の子、よちよち歩きの幼児、深夜の山中で出会う
事など考え難い。ましてそこは高速道路のトンネルの真中なのだ。
その後の行動を尋ねたところ、
「もうその後はチンタラチンタラ 『安全運転』 の一言だったね。
後ろから来たトラックの尻に追従しての小判鮫運転。
どうせ轢くのなら 【そいつに轢いて欲しかった】 からね。」
「本当に怖いのは生きてる人間、ってのは本当だよな。」 知人は真顔で言った。
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