402 : 自治スレでローカルルール他を議論中[sage] 投稿日:2010/10/13(水) 17:05:38 ID:+DwZyniQO [13/16回(携帯)]
チェックアウトというのはラッシュが来ると中々終わらない。 
ビジネスマンが多い平日は朝早くに集中し、早番と応対するか、最悪ナイト担当が一人で応対する。 
休日は逆だ。チェックアウトのラッシュは遅く来る。 
上手く行けばナイト担当が帰った後にラッシュが来るが、そうじゃないとナイト担当がそろそろ帰るか? 
という時間にラッシュが始まる。そうなると中々帰れない。 
その時は後者だったと支配人は言う。 
「ラッシュが八時頃から始まって、閑散期なのにリミットまで続いた」 
リミットというのは過ぎるとチェックアウト延長料を頂く時間だ。 
「十時までな。それで、ラッシュが切れた頃にふとキーボックスを見たんだよ」 
あの客は、チェックアウトしていない。 
不安になった支配人は電話を掛けた。勿論その部屋に。 
出ない。 
不安を煽られた支配人はその時の上司に頼んで、一緒に客室に向かった。 

マスターキーで部屋を開ける。女性は鼾をかいて眠っていた。 

白いドレス姿で。 

「きっと、婚約者にフられたんだろうな」 
支配人はそう呟いた。 
さて、当時の支配人と、その上司の目は、自然とベッドの横に行った。 
そのスタンド付きの小さな机には沢山の錠剤の殻が散乱していた。睡眠薬を使った自殺だとすぐに判る。 
そして、電話側のメモ帳にはぐにゃぐにゃと曲がった文字が書いてあった。 
「あの文章が忘れられないんだよ」 
支配人は言った。 


 4時××分 
 さようなら。 

 
403 : 自治スレでローカルルール他を議論中[sage] 投稿日:2010/10/13(水) 17:07:38 ID:+DwZyniQO [14/16回(携帯)]
支配人が電話を受けて、すぐの事だったらしい。 
支配人と当時の支配人の上司は救急車を呼んだ。鼾をかきつづける女性が入れられた救急車を見送った後、 
支配人の上司は、 
「あれはもう、ダメだな」 
そう言ったそうだ。 
ここまで言い終えて支配人は溜め息をついた。 
「あの息遣いは、薬を飲み下した後の息だったんだな」 
話はまだ続く。 
それから数ヶ月して、支配人がまたナイトを担当した時に、暗い顔をした中年夫婦が来た。 
「○○○号室は開いてますか」 
夫婦のその言葉を聞いて、支配人は理解してしまった。 
あの女性は結局、死んだのだと。 

「けどさあ、おかしいよな」 
話し終えた支配人は続けて言った。 
「なんで、ルームナンバー知ってんだよ」



404 : 自治スレでローカルルール他を議論中[sage] 投稿日:2010/10/13(水) 17:12:20 ID:+DwZyniQO [15/16回(携帯)]
「そりゃあ、聞いたんだろうよ」 
支配人の話を俺の口から聞き終えたAは何杯目だったかのビールを飲み干して言った。 
「誰に」 
「わかってんだろ」 
嫌な笑顔で言い返された。そんな気はしてた。 
救急隊員から聞いたのかもと思ったが、支配人が疑問に感じるという時点で、 
その推理は間違ってるという事になる。 
「でもよ、泣ける話だよな」 
は? 俺は間抜けな言葉を返した。こいつの頭の中では両親の枕元に立つのが親孝行なのか? 
そんな事を一瞬考えた俺に、Aは嫌な笑いを見せた。 
「そのさようなら、ってのは、誰に向けた言葉だ?」 
「誰って」 
家族とか、その彼氏とかだろう。ウェディングドレスを着て結婚式を挙げる予定だった。 
その事を告げるとAは 
「彼氏は含めない。家族だけだ。だってドレスを着てるんだ。 
 自分を捨てた相手に、ウェディングドレスを着てさようなら、なんて言わないだろ」 
そう言われるとそんな気がしてきた。けど、彼氏は含めない理由が解らない。 
それに、自分を捨てた彼氏に対する当て付けとも考えられる。 
「ああ、前提が違うんだよ、お前は」 
俺の反論を聞いてAは笑みを深くした。 
「彼氏は死んでるんだ。だから、彼氏は含めない。だから、メモは残した家族に向けたさようならだ。 
 だから、ウェディングドレスを着た。これから彼氏に会うんだ。さようならなんて言わない」 
だから、を連呼してAは締めくくった。 
「な、感動できる話だろ?」 
どっちが本当のことかは分からない。 
個人的には、きっとAは間違っていて、正しいというか正解に近いのは俺の方だと思う。 
けれど、あの時、自分には判るとでも言うように断言したAを見ていると、どちらなのか、解らなくなってくる。 

以上。見てくれた人、ありがとう