AME_3J0A2466_TP_V

 夜10時過ぎ、Bさんから電話がかかってきました。Bさんは沈んだ声で、 
「今日はお父さんとお母さんの入ってる宗教の施設に行ってずっと拝んでもらってたの。 
私、転校するかもしれない。この学校にいてはいけないんだって。それからね、マサミって子のことわかった。 
8年前に学校の屋上から落ちて死んだ6年生の女の子だよ。遺書もなにもなかったから事故にされたんだって。 
でも、このこと忘れたほうがいいよ。 

・・・来るから。あの階段に行っちゃだめだよ。・・・お母さんが怒ってるからもう切るね、さよなら」 
これで電話は切れてしまいました。 
そしてBさんは一度も登校しないまま転校してしまいました。 
新興宗教の本部のある都市に行ったと後で聞きました。

それからはその階段の場所へは近づかないようにしていました。 
環境委員にはAさんBさんのクラスから新しく選ばれた人が来て、そのうちのCさんと仲良くなりました。 
そしてそのCさんに階段の話をしてしまったのです。Cさんは活発な子で、見てみたいというので、 
学校にみんながいる時間なら変なことも起きないだろうと思い、昼休みにいってみることにしました。 

階段のあるところに行っても他の子どもたちのがやがやした声が聞こえてくるので 
怖いという感じはしませんでした。 
前に書き込みのあった手すりを見ると、ラッカーが塗られた上に新たな文字が浮かんでいます。 
「友だちができたよ マサミ」と読めました。 

「えっ、これウソ~」と私が言ったとき、けたたましい音がして非常ベルが鳴り出しました。 
シャーンと音がして非常シャッターが下り始めました。「たいへん」とCさんが言って半分まで降りたシャッターを 
くぐり出ました。私が下まで行った時にはもうくぐれない高さになっていました。 
シャッターが全部降りると非常ベルの音が小さくなり、コツコツという音が背後からするのがわかりました。 

振り返ると屋上へのドアのガラスを外側からだれか叩いています。すりガラスに人の影が映っています。 
やっとガラスに頭が出るくらいの背丈で大人ではありません。その人の右後ろにもう一つ影が見えます。 
「・・・ここ開けて」亡くなったAさんの声です。 
それに重なるように「あ・そ・ぼ・う・よ・・・」別の声も聞こえてきます。 

ガタガタとドアのノブを揺するような音がしてきました。 
私はドアに背を向けて階段の下のシャッターをガンガン叩きました。屋上へのドアが開いた音がします。 
思わず後ろを振り向くと、逆光でよくわかりませんでしたが、 
ねじくれたような人が半分開いたドアから入ってこようとしています。 
私は涙でびしょびしょになりながらシャッターを叩き続けました。 

「だれかいるのか」男の先生の声がします。「誤作動だ、今開けるからな」 
シャッターがゆっくりと上がり始めます。 
膝くらいの高さになったところで身をかがめてはい出し先生の手の中で泣き続けました。 
シャッターが完全に上がったとき、ちらりと階段を見ましたが、屋上へのドアは閉まっており、 
そこには何もいませんでした。