KAI427020_TP_V

まだ自分がうまれる、ずっとずっと前の話 
祖父が入院していたときの話だそうだ 
祖母と伯母と母が交代で、昼も夜も付きっ切りの看病だったらしい
今では考えられないが、その病院の隣は大きな墓地になっていて 
焼き場もそこにあったという 

水を汲んだり汚れ物を洗ったりと、行く回数の多い水場の窓からは 
そんな墓場が丸見えで、ひどく気味が悪かったと母からよく聞かされた 
特に夜は最悪で 
電灯を消された暗く長い廊下を歩いていると 
ひたひたと後ろから誰かが付いてきているような 
ありがちだが、そんな気がいつもしたそうだ
 
病院から家へ帰るには 
実はその墓場の中を抜けて行く方が近道だったらしいのだが 
当然怖いので、母たちはいつも遠回りの道を使っていた 
そんなある日 
病院から帰ってきた伯母が、家の玄関に入ってくるなり土間で倒れた 
「姉ちゃん、どないしたん?!」 
土間にうずくまり、なにやら低くうめいている伯母に母は声を掛けた

「……………」 
伯母はどうやら早口で、何かを繰り返しつぶやいている 
その時は、何を言っているのかわからなかったらしい