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小学校の頃、毎晩毎晩夢で行ける変な場所があった
そこは澄み切った池で、奥にすごく綺麗な草原が広がっていて(草原は坂)
草の上に蒼い目をした鹿がいてずっとこっちを見ているというもの

この場所なんだけど、行き方がはっきりわかっていて
家から徒歩5分圏内の右手は市営住宅(ガラが悪い人のたまり場)
左手は民家に抜ける道(木が茂り放題で、うっそうとしていて道がぬるぬる湿っている)
の中間に位置していた

毎晩と書いたけどよく考えたら毎晩じゃなかった
たまに思い出した時に見てた(´。・д人)ゴメンヨゥ…

リアルにその池に行くまでの道は存在していて、行き方はすごく簡単
で、夢で見た池にたどり着くには民家に抜ける道の一つ奥の細道を下らないといけない

この民家・市営住宅・夢の池に続く道がある個所は、
全体的にものすごく高い坂の上に建ってる

で、自分が夢で池に降りていくとき、必ず白い柵(低くて鉄製で赤く錆びている)
を超えてトントントンと何かに押されるように(転げ落ちるように)して
たどり着くのがデフォ

この池の夢をあんまりにも頻繁に見るので、
そのうちこの池が本当に実在しているのだと
小学生の自分は思い込むようになった
(最初はそんな池はないと思っていた)

信じ込んでいるうちに事実なんだと思い込むようになった
でも変な話なんだけど、リアルで昼間とかに
実際に池の存在を確かめようという気持ちにはあんまりならなかった

そんなものはないって知ったらきれいな夢が見れなくなるからそれが嫌だった

で、ある日。
その民家・市営住宅に挟まれた道なんだけど、
当時通っていた硬筆教室から帰宅する際に必ず通る場所だった。

で。
季節はいつだったか覚えてない。時間は19時くらい。
自分が10歳くらいの頃、市営住宅に上る道には街灯がなかった。
坂の途中に電話ボックスがあってそこの明かりがついているだけ
暗闇にぽつんと一個だけ。それがボウっと光って、すごく怖かった

今だったら子供を夜に徒歩で習い事から帰したりしないだろうが
自分の家は共働きで忙しくて呼ぶのも申し訳なかったので一人で帰っていた
家まで10分だし、
それまで何度も帰ったので大丈夫だと思っていた

でもその日は日が暮れるのが早くて教室が終わった時には辺りは真っ暗
一緒に帰るような友達もいないから道中ずっと暇

自分はその日なんでか夢の事を思い出して、白い柵の下を見てみようという気になった

暗いと言ったけど街灯は全くないのではなくて、
民家に続くうっそうと茂ったぬるぬる道を下りきった箇所に、木に隠れるようにして
小さい電燈がついていた。
だけど柵のところまでは光が来ない

覗き込んだけど葉っぱとか草とかがぼうぼう茂っているだけで
下に何があるのか全然見えなかったけど、背後に人がいる気がして怖かったのと
(市営住宅にはキ○ガイが住んでいるので有名だった)
あまりにも暗いので割とすぐ嫌になってダッシュで坂を下って家に帰った
居間に入ったらテレビがついていて、それが9時のドラマだった
そんなに時間がかかるわけないのに変だなぁと思ったのを覚えている

で。幻かもしれないが柵からの去り際、眼下で何かキラっと光った気がした
子供だったから「きっと池があるんだ」と信じ込んでその日はおしまい
その夜は夢は見なかった

硬筆教室は週に一度。
今くらいだから19時でも結構明るい。うちの親はすごくいい加減な人たちで
当時は田舎だし犯罪とかに敏感じゃなかったので
9時帰宅も変に思われずそれからも普通に一人で帰る状態が続いた

さっき季節覚えてないって書いたけど実際は教室を出るときは明るかったから
今みたいに日が長いんだと思って「たぶん今くらいの季節」だと推測して書いた
正直子供の頃の話なのでところどころ忘れている箇所が結構ある

その真っ暗な確認作業の後、池の夢を見ない日が続いた
民家と市営住宅の道は何度も通っていたけど、あえて柵は確認しなかった
自分もあいまいな状態にしておきたかったし、なんていうか
本当に形容できないくらい池の景色がきれいだったんだ

夢も見なくなりしばらく毎日忙しくて池の事はすっかり忘れていた

ある日、硬筆教室が終わってまた一人で帰ることになった
実は教室の先生は高齢で体が弱い人で
体調を崩して出かけるのが辛いときは先生の自宅で生徒を見るシステムだった
それまでは公民館で教えてもらっていたのだけれど

先生の自宅と公民館は徒歩5分くらい離れている
その日は先生の自宅で教わっていた
生徒は少なくて(もう教室自体辞めるのではないかという噂だった)
その日はなんと自分しかいなかった

本来なら民家と市営住宅の間の道にたどり着くまでに大きな団地があり
その団地から子供が数人習いに来ていたので途中まで一緒に帰る
(というか自分が勝手に尾行)することができる

でもその日はたった一人。子供だし、先生の家と自分の家までの道が曖昧で
しかも帰るときは例によって暗かったのですっかり迷ってしまった

前も書いたけど、市営住宅も民家もとにかく高台にある
先生の家も相当坂を上ってたどり着いたので、迷ってはいたが
とにかくどんどん下ればいいと思った

市営住宅と違って街灯が煌々としていたので怖くはなかった

迷ってぐるぐるしてもしょうがないし
親を呼ぼうにも先生の家から結構歩いてしまったので意地になって下った気がする
とにかく市営住宅のあの電話ボックスを見つければいいんだと思って

で、そうこうしているうちに街灯が途切れて真っ暗に

電話ボックスの光はグリーンがかっていて(電話機が黄緑だから反射してる)
しかも結構強めに光っていて周囲に遮るものがないから遠目でもすぐわかる

しばらく下っているとそれらしい光を発見
言い忘れたけど白い柵は電話ボックス(市営住宅の坂中盤付近に位置)と
民家じゃない道(自分がいつも通っている道)を挟んで反対側にある

今思い返すと、坂が真っ暗ってことがちょっとおかしいんだ
いつからそうだったのかちょっと分からないんだが
硬筆教室が終わるのは普段は18時、遅くても19時。
普通に靴の紐まで見えるくらい明るいんだよ
教室から家まで10分なのに、家に近づく頃には真っ暗なんだ

でも団地の中の坂が街灯ひとつないなんて経験がなかった
街灯がないのは市営住宅に続く坂のある箇所だけで、自分が通っている道は
それまではぽつぽつ光があったんだ

とにかく電話ボックスの光を目指して下っていると、微妙にカーブしている箇所にたどり着いた
市営住宅・民家・その間の道はカーブしているので、やっとたどり着いたと思った

この時点でもう時間の感覚がなかった気がする
で、その時柵のことを思い出した
怖くて急いで家に帰りたいのになんでか思考がそっち方面に

白い柵が確認したくなった
(帰りがけだと左手になるので歩くのはそっち側に決める)

そのままどんどん下っていくと、緑の光を浴びて白い柵があった
やっぱりなって感じで下は前と同じく真っ暗
でも振り返るとびっくりした
光の正体は電話ボックスじゃなくて、なんでか黄色い裸電球がいっこだけついた建物だった
電話ボックスがないことよりなんで緑が黄色になっていたのか混乱

とにかく現場は真っ黒
すぐ思ったのは一本道を間違えたのかもということ

先生の家のある高台の団地は密集していて
下る道がいっぱいある。だから間違えたんだなと思った
でも柵はあるんだよね。白くて、赤い錆がいっぱいついてるやつ
同じなのか違うのか、似たような柵はどこにでもありそうな気がしたけど
なんとなく池のことを考えて下を覘いた
また何も見えず

裸電球の家が不気味だったのと(プレハブっていうか箱って感じの窓がない変な建物)
キ○ガイが出る家だったらどうしようと思って急いでそこを離れる

ちなみにキ○ガイは中年女で市営住宅を徘徊しているという噂だったけど、
実際どこに住んでいるのか正体不明だった

とにかくカーブを全速力、で突き当りをまた左手に降りて下ると、いつの間にか
自動販売機のある駄菓子屋の前に出ていた
(この駄菓子屋は坂を下りきった終着地点に位置している)

そこから家までの道は知っていたので走って帰る
ドキドキすごかったけど、なぜか家に誰もいなくて鉢の下から鍵を出して入る
車がなくて姉が塾に行っていたので母親は多分送り迎えしているのだと思った
興奮を話せなくてもどかしかった記憶がある
テレビをつけるとサザエさんがエンディングやってて、時間はなんと19時前だった
教室終わったのは19時5分くらい前、これは習字しながら時計を確認していたので正しい
(先生の家の時計が狂っていたと言われればそれまでだけどさ)

その日の夜に池の夢を見る

興奮しすぎてテレビにも集中できないし勉強もできないし
風呂に入るのも怖いし一人になるのが怖いし
塾から帰った姉を捕まえてずっと騒いでいて殴られた気がする
変なテンションだったと思う

その日は池の夢が見たい見たい見たいと布団の中で
半分血眼で念を送っていたので絶対見れると確信していた
でも興奮しすぎで睡魔は訪れず
明け方になってちょろっと眠った、けど池の夢が見れた

池は無色透明で底が透けている
澄み切った水の中に苔の生えた岩がランダムにいっぱいある

でも結構でかいので中心部の底のほうは見えない
池の周囲と、坂になっている草原にはザーッと風が吹いていて肌に温かい
長くて柔らかい、いい匂いのする草が足元にふわっふわの状態でいっぱい生えている

ほんと天国みたいなんだよ
今でも池の事を考えると草原を吹き抜ける風の香りが鼻の近くでする気がする
大体ここまではいつもの夢のパターンで、楽しんだけど
しばらくすると鹿が出てくる(もののけみたいなやつじゃなくて普通の小さい鹿)
トムソンガゼルみたいな顔なんだ、目が真っ青、てか蒼

鹿は坂の草原の真ん中くらいの位置にいて、じっとこっちを見ている
結構長い間見ていて、目がそらせない感じ
なのにいつの間にか綺麗な景色に同化してしまって、(消えるというのとも違う)
気が付いたら鹿はどこかに行っている、これがいつものパターン

※じゃあ夢の中で自分はどこにいるのかというと、
池の周囲をぐるっと囲んでいる草っぱらの中
綺麗な鹿に近づきたいんだけどなんでか坂の草原には行けない
なら渡ればいいんだけど、なんでか夢の中では池の中に足を入れる勇気がないんだよね
底も見えているし岩もあるんだから底を踏めばいいのになぜだろうね

でも裸電球の箱が出てきた日に見た夢には鹿が出てこなかった
いつもより草が黒っぽかった気がするってか
池の中が全体的に暗かった(こういうのは初めてのパターン)

短い微睡の中でも鹿が見たかったので結構覚めないように粘ったんだけど
いくら待っても出てこなくて
ふと「仕方ないなぁ」って思ったら目が覚めていた
その日から何日か経過して、土曜だか日曜だかの昼間

近所に幼馴染のなっちゃんって女の子がいた(今はどこかに引っ越した)
もう一人まいちゃんって女の子もいた(今は結婚してどこかに引っ越した)

 三人でよく遊んでいた
ぬるぬる道の民家の細道を下るとなっちゃんの家に直通でつく
なっちゃんの家は凄い暗い森みたいな庭に囲まれた大家
ここらへん一帯の地主の家で、資産家
でも昼でも真っ暗のぬるぬる道。なっちゃんも通らない
地元でも用がないので誰も通らない

ゆえに、ぬるぬる道の奥に位置する白い柵の存在はなっちゃんも知らなかった
自分も詳しく話さなかったからチラッと聞いただけだけど
あの夢を自分だけのものにしたかったから、
あんまり部外者に踏み込まれたくないのもあった

で、その日もあまり詳しく話さず三人で電話ボックスの場所まで自転車で遊びに行くことに

自転車で現場に向かう
でもびっくり柵がない

場所を間違えたのかと思ったけど
間違えようがないほど簡単なルートなのでそれはなし

柵のあった場所はガードレールがあった
カーブに沿ってきっちり隙間なく続いていて柵があるような隙間がそもそもない
トントントンと下りられた気がするが、そんな道自体がない状態
下を覘くとなっちゃんの森伝いに竹林が茂っていて、脇に小さい畑みたいなのもあった
遠くに緑色のため池が見えたけど、フェンスで囲まれているし、高台だから
近くに見えるけど実際は凄く遠くにあるのが分かった

自転車で現場に向かう
でもびっくり柵がない

場所を間違えたのかと思ったけど
間違えようがないほど簡単なルートなのでそれはなし

柵のあった場所はガードレールがあった
カーブに沿ってきっちり隙間なく続いていて柵があるような隙間がそもそもない
トントントンと下りられた気がするが、そんな道自体がない状態
下を覘くとなっちゃんの森伝いに竹林が茂っていて、脇に小さい畑みたいなのもあった
遠くに緑色のため池が見えたけど、フェンスで囲まれているし、高台だから
近くに見えるけど実際は凄く遠くにあるのが分かった

どこかで「池なんてない」って分かっていたので
竹林しかなくてもその意味の落胆はしなかったんだけど
そもそもの柵自体がないことは想定外だった

では自分がずっと見て知っていた白い柵は、本当は電話ボックスじゃなくて
あの裸電球の箱の向かいにあった白い柵の方なんだろうか?と思う

柵がなかった衝撃で、まいちゃんとなっちゃんに事の顛末を話したはずなんだけど
もちろん始まりが夢の話だし、子供だし要点をつかめない
てか何が言いたかったのか何を言ったのか今となっては不明

とりあえずなっちゃんが怖がって泣いたのは覚えている
キ○ガイの家という表現が恐ろしかったらしい
まいちゃんは平然としていた

その日の流れで裸電球の箱の家を探すことになったけど
やっぱりっていうか当然というか見つからなかった

カーブを下って自動販売機の駄菓子屋にたどり着いた時は簡単だったのに
なぜか逆ルートで向かおうとすると普通に電話ボックスの道に出てしまう

その日は捜索をあきらめて帰宅
自転車だったので結構遅くまで遊んだ気がするけど
やっぱり暗くなるまでは怖いので遊べなかった

その日から池の夢が黒くなる

それまであの夢は時々運がいい日に偶然見られる程度
頻度にしたら一週間に一度見れたらいいほう、見た後は清々しい気持ちに

それが裸電球の箱を探せず柵もない事が分かってから
3日に一度くらいの早いペースになった
それも前みたいに長い尺の、はっきりくっきりの綺麗な映像じゃなくて
なんかぶつ切りっていうか、場面場面がフラッシュみたいに
ボッボッボッって浮かんで消えるような感じ
何か別の夢の間に無理やり入ってくる感じ
すっかり落ち着かない夢に代わってしまって、なんかあんまり見ても楽しく感じなくなった

黒い夢っていうのはまず草の色が黒緑なのね
池も前は透明度抜群だったのにくすんだ感じの茶色になって
気が付いたら下の岩が見えなくなってた

鹿は全然出てこない
最後の方は薄暗い場所の池っていうか沼みたいな映像で、
嫌な気持ちになるのでもう見たくないなと思い始める

硬筆教室の日。あの箱の日から教室は休みが続いたり変則的に時間が変わったりしていた

後から分かったけど先生はマジで調子が悪かったらしい
最近母から聞いたが癌だったみたい
高齢なので進行がゆっくり?なので自宅療養にしていたらしい

ここらへんからなんか記憶が飛ぶ
たぶん硬筆の最後の日(これ以降先生の家に行った記憶がない)
例によって暗くなったけれど、昼間に何度か先生の家に行ったことがあったので
今度は迷わず家に帰っていた
怖かったけど正直箱の家にさえつかなければ柵もないし普通に帰れると思った

結論から言うとやっぱり箱の家はありませんでした
でも見つける気もなかった。もう池の夢を忘れたいと思っていた

坂を下っていると普通に市営住宅の坂の電話ボックスのある道に出た、いつもの道。
そのまま行くと民家(なっちゃんち)に続くぬるぬる道がある。これは左手
そこは通過するときドブ臭い
鬱蒼としてて空気も通らない感じの道で昼間でも気味悪い
ここは普段急いで通り過ぎるし絶対見ない場所

このぬるぬる道に誰かいた
ぬるぬる道の場所は下に街灯があるのに上の入口から見ると真っ暗
縦に空いた洞穴と形容するのがいい感じ、その際を通ると足音がすごく響くんだよね
怖いから全速力したいんだけど、 真っ暗だし
走ると前につんのめって転ぶ(経験あり)ので走れない
静かに早足していたけど、確かに誰かのフーフーいう声がしました

フッーフッーっていうかハーッハーッていうか息っぽい感じ。
もう足がすくんでしばらく固まったよ

確かめる勇気なんてないし、はっと我に返ってからは全速力で走った
徘徊しているキ○ガイが潜んでいるんじゃないかと思って
捕まった時の言い訳ばっかり考えていた

坂を下って曲がる(自動販売機の駄菓子屋にたどり着く道の手前)
で振り返ったら真っ暗だし誰もいなかった
けど、向かいの上り坂に電話ボックスじゃなくて
裸電球が見えた気がしてガタガタ寒気(幻だと思うが…)

その日なんと家に帰るとドラマの最終回のエンディングが流れていた
時刻はなんと22時半……

この話、何年か経っても鮮明に覚えていて、親に
「あの日硬筆終わって10時過ぎて家に帰ったよな?」
「9時とか、遅い時間に一人で帰ってたよな?」と聞いても
「そんなわけない、子供をそんな遅い時間に一人で帰らせるわけがない」とか
「硬筆はあんたが途中で面倒やって言って辞めたやんか」とか
「大体、先生は体が大変で公会堂やめてから教室やっとらんかったやろうが」とか言ったんですよ

でもドラマの最終回の様子とかエンディングの曲も鮮明に覚えているし
親も姉もそれに夢中で私の帰宅に気が付かなかったのも
全部全部はっきり覚えているんです

池の夢ですが、硬筆教室にもいかなくなり
あの市営住宅とぬるぬる道ルートを全く通らなくなったら(危険だと言われていて、
しばらくして明るい街灯がついた)
自然と見なくなりました
ぶつ切りの沼のシーン以来、今日まで一度も見ていない

でもあの白い柵を越えてトントントンと下りると綺麗な池があって
美しい草原があって、蒼い目の鹿がいたのは本当に草の匂いまで鮮明で
本当の事みたいにすごくリアルで、今でも何か機会があったら
走って行ってそこに行けるんじゃないかと思うくらいです