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小さい頃に俺は両親の仲が悪くて母方の祖父母に預けられてて、子供が少ない村だったから一人で遊んでたんだ。 
5歳くらいの秋だったと思うけど、いつものように婆ちゃんの昼飯食べて近くの野原で遊んでたらボールが草むらの中に入っちゃって追っかけて行ったら迷ってしまったんだ


草むらって言ってもすぐ近くに山があったからその中に入って探しに行ったんだけど、どうしてもボールが見つからないんだ。気付いたら深くまで来ちゃったし、怖くなったから来た道を引き返して戻ることにした。 
獣道を登ってきたけど、婆ちゃんとキノコ狩りに来た事あった所だから帰り道は知っていたんだ。でもどうにも元いた野原に帰れなくて俺は泣きそうになった。 
しばらくすると家が見えてきた。 
山の中のはずなのに立派な門の有る古い家が有ったんだ。

電話を貸してもらおうと思って門から入ったんだけど、その家は村長さんでも住んでないような大きな家でただすごいなあと思ったのを覚えてる。 
馬小屋が有って大きな馬がいたし、池には鯉が泳いでたからね。 
それで家の入り口に行ったら黄色いゴムボールが落ちてたんだよ、俺の探してたのが。 
俺のボールって分かったのは、ボールにはひらがなで俺の名前が書かれた奴だったから何だけど(笑) 
それでポケットにそれを入れて、ドアを叩いたんだけど反応がない。

それで試しにドアを開けてみたら鍵かかってないから家の中に入れたんだよ。 
その家は平屋建てだったんだけど、囲炉裏やかまどが有った。 
祖父母の家にそんなの無かったから驚いたけど、蜘蛛の巣が掛かってるんだ。 
床は綺麗なのにまるで誰も暮らしてないかのように箪笥とかも同じようにホコリ被ってた。 
「誰かいませんかー?」と聞いても誰も出ないし、電話もない。 
流石に怖くなって帰ろうと思ったら鈴の音が真後ろから聞こえたんだ。 
ギョッとして振り向いたら髪の長い若い女の人がいた。

その女の人は村でも見たことない人で着物を着た日本人形みたいな美人だったね。でも当然子どもの俺はヘビに睨まれたカエルみたいにビビっちゃって動けない。そんな風に固まってたら女の人が急に俺のポケットからボールを奪ったんだよ。 
その人はボールをジーッと見たと思ったら、少し微笑んで俺の頭を撫でてきたんだ。

そこまでしか覚えてない、気が付いたらさっきまで遊んでた野原で寝ていてポケットにはボールがちゃんと入ってたけど、ボールに書かれたはずの名前が何故か消えていた。 

そのまま家に帰ってこの事を祖父母に話したら二人とも顔を真っ青にして、俺を車に乗せて、俺が迷い込んだ山のふもとに有る社に連れて行って何かを納めた。 
「ごめんな、ごめんな」とお婆ちゃんが俺に謝って来たの衝撃的だったし、赤顔の爺ちゃんが真っ青から顔面蒼白だったことは今でも覚えてる。

それで爺ちゃんが死んだ通夜の時に村長さんから聞いたんだけど、この村では昔、山姫が子供をさらって食っていたらしいんだけど、旅のお坊さんが制し、この村の守り神にした。 

でも完璧に倒したわけじゃなくて、山姫が名前の知らない子は守らなくて良いから、だから食べても良い事になってしまった。 
お社に名前を納めるのは食べられないようにするためで、昔は口減らし目的でわざと納めないことも有ったとか…。 

だからこの村では子供が生まれたり、村の外から子供が来たら、必ずその子の名前を書いた人型の紙を山の麓のお社に納めないといけない決まりになっていて、もしそれをしないとその子が山姫に(社に祀られてる山の神様)さらわれて食われてしまうらしい。 

俺の場合それは半分さらわれかけてたらしいけど、ボールに書かれた名前が書いてあって、山姫が俺の名前を知れたから帰す事にしたんじゃないかなと推測されました。

ちなみに山姫は名の知らない子を食べる神だけど、名を知った子や村人に恩恵を与えることも有るようで、俺みたいに迷って山姫の屋敷にたどり着いた山師が馬小屋の馬に乗って逃げ帰ったところ、大変な名馬でお殿様に褒美を頂いた話が有ったり、 
病気の子の枕に立って病気を治したなど、その村の人に慕われてる神様には違いないみたいでした。 

俺も頭を撫でられた日からすぐに今まで不仲だった両親が離婚せずに済み、今も両親と暮らしてます 

これも一応、山姫のご加護なのかなあ?