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北海道は昭○炭鉱での話。 
その昔炭鉱で栄えた町で相当の人数が住んでいたそうだが、俺が友達と馬鹿なキャンプに行った時は既に廃墟だった。 
言いだしっぺは定岡で、俺は嫌だといったが、強がりで絶対に引かない田村の性格が災いして、3人でその廃墟に一泊のキャンプに行くことになった。 
自転車で2,3時間はゆうにかかる距離だった。 
なぜ俺が嫌だといったかというと、親父と車で一度行ったことがあったから。 
特にお化けがどうたらとかいう話を聞いたわけではないが、あまりいい気持ちがしなかったのと、その日に金縛りにあっていた記憶があり気乗りがしなかった。 
ま、それはともかく、夏休みのちょっとしたお遊びのはずたった。 

現地に着いたのはまだ2時ころだったと思う。 
団地やら平屋の共同住宅やらがたくさんあった。割れている窓ガラスもあったが、まだまだ使えそうな家もたくさんあった。 
石を投げて窓ガラスを割って遊んだり、家を探検して遊んでいた。 
廃墟になって数十年たっていたと思うが、まだまだ生活感が感じとれた。障子にカレンダーが貼ってあったり、レトロなポスターが貼ってあったり。

町だったのか村だったのか知らんが、自転車で少し町はずれと思われるところに行った時、なんとも妙な建造物を発見した。 
一見祠のようだが、神社のミニチュアのようでもあって、鳥居みたいのがあって、でも横が3本なので鳥居ではなかった。 
何かを祭ってあるのか、開き戸が正面にあった。大きさは箪笥くらい。 
今思えばよせばいいのに、定岡が面白そうだといって扉を開けようとした。 
特にお札とかが貼ってあったわけでもないし。 
簡単には開かずガシャガシャやってやっと開いた。 

中はまわりが紙垂のようなもので飾られていたが、決して白くはなくたぶん赤色が経年劣化したようなどす黒い変な色だった。 
で何が妙だったかというと、その奥に貼られている紙に書かれている文字だった。 
当時その存在を知らなかったので何だコレくらいにしか思わなかったが、今ならたぶんハングル文字だと思う。 
その前に小さな引き出しだか箱みたいなのが幾つかあって、その前に石ころがおいてあった。 
開けた瞬間なぜだか、たぶん3人ともぞわぞわっとしたんだと思う。俺はそうだった。

しばらく沈黙が流れて定岡は戸を閉めた。 
いや、閉めようと思ったのだが左の扉が朽ちていたのか、ぽろっと落ちてしまった。 
廃墟だし別にほっといていいのだが、定岡はあわてて拾ってたてかけ、元に戻したふりみたいな感じでその場を去り住宅街に戻った。(といっても廃墟な) 
とりあえず自転車を止めて一息つき、俺が「なんかすんげぇ怖くて後ろを振り返れなかった」というと、二人も同じだった。 
怖いというより、気持ち悪いといった方が近いか、要はそんな嫌な気持ちだった。 

気を取り直してその後も探検を続けて楽しんだ。 
野イチゴもあってすっぱかったがうまかった。唯一のいい思い出な。 
最初は楽しかった探検も、だんだんと日が暮れてくるとなんだか怖くなってきた。さっきの事もあったし。 
風と虫の鳴き声以外は静寂そのものだった。

最初はテントに泊まる予定だったが、とある住宅の2階で比較的綺麗な和室があって、テントよりこっちの方が良くねってことになった。 
テントはるのも面倒だったし、和室の畳で寝られる方が良さそうでしょって感じ。 
キャンプといってもそんなたいそうな支度もしてなかったし、夕食は簡単にパンと牛乳みたいな感じですぐに終わった。 

懐中電灯とランタンの灯りでトランプで遊んだりしていたが、夜も真っ暗になると無条件に恐怖に包まれた。 
俺は「今ならまだ11時には帰れるからもう帰ろう」といったが、ここでも田村の性格が災いして却下。 

9時近かったと思う。定岡が「うんこしてぇ」と言い出した。昼間の記憶だときたない和式のぼっとん便所。 
仕方ねぇなぁといいながら定岡は便所へ行った。便所は玄関の横にあって俺たちの和室からは一部屋先。 
すぐそこといえばすぐそこなのだが、とてつもなく遠くに感じ、俺は絶対に便所は行かないぞと思った。 

その時「ぐぅわぁぁぁぁぁっ」と悲鳴をあげながらバタバタバタバタと定岡が戻ってきた。 
俺と田村は定岡の悲鳴を聞いて驚き「うわぁぁぁぁ」と悲鳴をあげた。 orz 
定岡のズボンはまだ半分下げたまま。顔はランタンの灯りでも真っ青で、めちゃブルブル震えていた。

まともに喋れる状態でなかったが、何があったかというと話はこうだ。 
便所に入ってズボンを脱いでしゃがもうとしたとき、便所の小窓から男がこっちを睨んでいたというんだ。 
半開きの窓の隙間から月明りではっきり見えたという。 
でもって何の根拠かしらないが、お化けとかじゃなくあれは生きた人間の顔だとブルブル震えながら話した。 
田村が「馬鹿野郎ここは2階だぞっ」そう言った時の定岡の顔は忘れられない。 

俺は「やっぱり帰ろう」と言った。 
ここは山奥の炭鉱町廃墟。帰るにしたって相当怖い山道を通らなきゃ帰れない訳だが、こんなところで一晩過ごすよりはよほどましだと思った。 
こんなところにキャンプに来たことを心底後悔した。 
とにかくかあちゃんやとうちゃんのいる所へ帰りたかった。 
その時だった。