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大学時代は、バイト三昧で正直今思い返しても、よくそんなに働いたなと
感心するほどだった。
朝からコンビニバイト、昼は大学で寝てwww、夜はファミレスでのバイトをしていた。

冬の日、コンビニの早朝のバイトにノーメイクぼさぼさ頭で出勤してくる私とは違い、
毎日化粧バッチり、付けまつげバッチリでバイトにくる池田(仮)さんは、
同じ大学生ということもあって、よくバイト中に無駄話をしていた。

そんな池田さんが品出し中の私に話しかけてきた。

「金縛りってあったことある?」

突然なんだ?と思いながら答えた。

「一応人並みに程度に。池田さんあるんですか?」

「いや、私はないだよね。ただ、私の友達の知り合いは金縛りにあってて、
それで寝不足なんだって」

そう話しながら、いつのまにか池田さんは品出しを手伝ってくれていた。

「金縛りって確か、脳は起きてるけど、体疲れきって起きれない時
に起こるやつですよね。その友達かなり疲れてるんじゃないですか?」

「私もそう思ったんだけど、ただその金縛りかなり苦しいらしんよ。
だから、眠るのが怖くって我慢して起きてるらしいのよ。でも、眠いからいつの間にか寝ちゃって、
そしたらまた金縛りに合うんだって。そんな感じのこと繰り返しているとだんだん悪化してきて…」

と話し込んでるうちにお客さんがやってきた。

温かい缶コーヒと甘いパンをとってすぐにレジに向かったため
池田さんが話を中断し接客を行った。

そのお客さんを皮切りに朝のラッシュが始まったため、私もさっさと品出しを終わらせ
2番レジを解放しお客さんを捌いていった。

朝のラッシュが終わるころにまずは池田さんがバイトをあがった。
私も自分のレジのお客さんを捌いて、すぐにバイトをあがったが、池田さんはこの後すぐに用事があるらしく
急いで店を出ていったため、金縛り話の続きを聞きそびれてしまった。

その日は、いつも通り授業に出て、ファミレスでバイトし、夜11時ごろに帰宅した。
ファミレスで賄いを食べたため、帰宅したらすぐにシャワーを浴びベットに寝転がった。
その頃には金縛りの話は、すっかり頭から消えていて、ただ普段にもまして凄い眠気が襲ってきたため
髪も乾かさずに眠ってしまった。

真夜中に突然目が覚めた。

ただ、はっきりとは覚醒せず、ボーっとした頭で何かの違和感を感じた。
時間が立つと、その違和感がはっきりとし始めた。

部屋が異常に熱いのだ。

(あつい!あつい!!なんだこれ。)

異常な熱さに一瞬火事でも起きているのかと思い、起き上がろうとしたが、
まったく起き上がれない。
体まったく動かなかった。

瞬間的に朝のの池田さんとの会話を思い出し、金縛りにあっていることを理解した。
そしてこの熱さは火事なんかではなく、金縛り時の幻覚だと思った。

昔よく金縛りにあっていたが、久しぶりの金縛りで、しかも幻覚も見る(感じる?)金縛りは初めてで、
特にかくもう早く体が動くようにと必死に動こうとしたが一向に解かれる気配もなかった。
幻覚だと分かっていても、異常に熱い部屋、自由にならない体のせいで恐怖心は大きくなっていた。
そのうち、呼吸も苦しくなって最終的には無呼吸状態になった。

そうなるともうパニック状態で、何とか助からないかと1人静かにジタバタしていた。

そして、ふとエアコンが目にはいった。
備え付けのエアコンは、風の吹き出し口の少し上に
室内温度が表示されるタイプのエアコンだった。室内温度は何と42℃と表示されていた。
しかも何故か付けた覚えのない暖房がついていた。それを見た瞬間余計に焦り始めた。

そして、何故かこのままで死んでしまう!と考えた瞬間に耳元で

パン!!と破裂音がした。

その音と同時に金縛りは解けて、呼吸もできるようになった。
まるで過呼吸のように、ヒューヒューという喉と凄い速さでなる心臓が、本当に呼吸ができなくなっていたんだじゃないかと
思わせた。

ただ、エアコンを見ても室内温度が42℃ではなかった。寝る前付けたエアコンは室内温度24度で保っていた。
やっぱり幻覚だったんだと思った。

突然携帯が鳴った。一瞬ビックとしたけど、携帯の小窓には大学の友人の名前が表示されていた。
その時に気が付いたが、あたりはすっかり明るくなっていた。

電話に出ると、今日は大学にはこないのか。授業にでないのか?と連絡が来た。
時計を確認すると、もうお昼すぎだった。
急いでタンスからセータとジーンズをとりだして着替えコートを羽織り、家を飛び出した。
マンションの下に止めたある自転車に乗り大学へ向かったが1つ変なことに気が付いた。

外が異常に熱い!陽射しがきつくアスファルトの照り返しのせいで向う側が歪んで見えるくらいだった。
さっきの幻覚の続きを見ているみたいで、気持ち悪くなり、すぐに引き返し部屋に戻った。

部屋に戻る前にマンションの階段で同じ回に住む、おばさんとすれ違った。
もともと挨拶程度の仲のため、会釈を交わしたが、そのおばさんがすごく怪訝な顔してこっちをじっとりと
見てきている。
何かあるのか気になったが、兎に角早く落ち着くためにも部屋に戻りたく、そのおばさんの顔は無視して部屋に戻った。

玄関に立ったまま、やっぱり友達に代返をお願いしようと、携帯をとりだしディスプレイを見ると
カレンダーが7月になっていた。

えっ!?なんで?と驚いた。
本来であれば今は11月のはずが、なぜか携帯では7月になっていた。
携帯が時間設定が狂っているのかと考えたが、急に不安になり友達ではなく時報にかけた。
機械的な音とともに、現在が7月であることを告げられた。

意味が分からず、どうして?なんで?と考えているうちに先ほどすれ違ったおばさんを思い出した。
そのおばさんはTシャツにくるぶしまでのパンツ、それにサンダルを履いていた。
完全に夏の格好だった。

すぐにドアを開け外に出てみると、暑い。
夏の気候の中に、コートを着て立ち尽くしていた。

それからは友達や家族に電話をかけまくって、今日は何日なのか、自分は11月から今までなにしていたのか聞きまくった。
家族からの話では年越しの時も実家に帰ってたしらしいし、友達に聞いても特に変わったこともなく普通に生活してたし、進級も
していたと言われた。

なんだか怖くなりそれからしばらくは、部屋から外には出なかった。
かかってくる電話も全部無視、バイト先からの連絡すら無視した。
もう首になってもいいから、とにかく誰にも会いたくないし怖かった。
その引きこもってもる間考えて考えて考え抜いた結果、
無理矢理、記憶障害でも患っていいたのだろうと結論付けた。

そう結論付けてからは大学へも徐々に行きはじめた。
はじめは戸惑ったが、友達には体調を崩していたと説明し、今まで通り関係を保つこともできたため大学へは完全に復活していた。
バイトはクビになっているとおもったから新しいバイトを始めた。
たまに知らない人に声をかけられることがあったが、適当に話を合わせてやり過ごしていた。
その後は特に何も起こらず普通に過ごすことができた。

結局今考えても何だったのかよく分からない。ただ単に記憶がないまま冬から夏になっただけ。
やっぱり記憶障害だったんだろうか。

けど、なぜ私のタンスの中には夏にも関わらず、冬服が入っていたのか、なぜコートがすぐ羽織れる所に出してあったのか。
そして、もう一つ不思議なことがあって、金縛りの話を聞いたバイト先のコンビニはなくなっていた。
潰れたとかではなく、もともとそこにコンビニはなかったとのことだった。
考えても分からないことばかりなので、もう何も考えないようにするけど、もし今の世界が偽物だったら
あの時のマンションの一室ごと別世界に来てしまったのか考えると、怖くて不安で気が狂いそうになる。