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2歳ころの記憶。 

そのころ家は貧乏だったそうで、古いアパートに住んでいた。 
遠くには単線の駅があり、そこからカンカンと踏切の音が良くしていた。 

ある日曜日の昼、いつものようにアパートの下で砂遊びをしていた。 

同じアパートに住むお姉ちゃんと、自分の母とお姉ちゃんの母親が立ち話をしてた。 

座り込んで遊んでいてふと顔をあげると、目の前に小学生くらいの男の子が二人いた。 

彼らからは、おしろいのような胸を締め付けられるようないい匂いがした。 

一人のお兄ちゃんに手をつかまれ、手をひっぱられて走り出した。 
後ろを振り向くと母が見えたが、あまりに早く走るのであっという間にアパートすら見えなくなっていた。 

お兄ちゃん達は、フェンスを越えて線路に入ると私を伴って歩き出した。 

空気が熱くて、遠くが蜃気楼のようにゆれている。 
線路の焼けた石の色や、枕木の独特な油っぽい匂いもしっかりと記憶にある。 

なんだか楽しくてきゃっきゃと歩いていたが、足がうまく動かないのでふらふらと歩いた。

やがて、線路は終り、鉄のレールが大きく曲がっていた。 
そこまで来るとお兄ちゃんたちは、また私の手を握った。 

すると風の音がして目に砂が入り、ぎゅっとつむった。痛くて泣いていると、母が慌てて私を抱き上げた。 

いつの間にか、私はアパートに戻ってきていた。 

それから度々、この小学生のおにいちゃんは現われて私と線路に入って遊んだ。 

5歳になると、私たちは別の市に家を買って移り住んだ。 
そこは線路も駅も見えなかった。 

新しい家では、床の間があったがそこがなぜか好きで、一人で座っていると気づくとあのおにいちゃんが立っていた。

昔よりも成長していて高校生のように見えた。
私は、床の間でお兄ちゃんと遊ぶようになった。 

髪をすいてくれたり、膝に乗せて抱きしめてくれたりしてくれた。 
やはりいい匂いがしていた。 

床の間に張り付いてる私を、母は気味悪がったがやがてその床の間に仏壇か置かれるとそのお兄ちゃんは現われなくなった。 

今でもあのおしろいのようないい匂いが鼻をかすめると、胸が苦しくなる。 

あの人はだれだったんだろう