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オマエら秀吉がそんなに好きなら「畜生塚」って知ってるか。 
秀吉の甥、秀次の官位をもじって「殺生塚」とも言うな。 
でもオレがこれから話すのは言葉通りの「蓄生塚」だ。 

山を生活の場にしている者の中には今でも地方の名も知れない小さな山の中にひっそりと立っているのを目にしたことがあるかもしれないな。 
そんな時はちょっと立ち止まってさ手を合わせておけばいいくらいのものさ。 
でも中には、とんでもなく厄介なものもあってさ、扱い方を間違えるとひどい目にあう。 

オレの父の実家のあるK村にそれがあってさ、実家は代々その塚と山を管理していたんだ。 
その家を仮にT家と呼ぶな。 
T家は昔からその辺一帯の地主をしていて戦後の土地改正で随分変わったといっても今でも田や山をかなり持っているんだ。 
T家がなぜそこまでの身代を持つに到ったか、これに関しては虚実取り混ぜてかなり面白い話もあるんだが、これから話すこととゴッチャになるからここでは割愛な。 

ただ一つこんな話しがある。 
昔この村に化け物が住み着くようになり村の人間を攫っては食うようになった。 
困った村人たちが山の神に助けを求めた。 
そしてある夜山の神が村人たちの前に現れて1人の童子と4匹の犬を託した。 
その童子と犬を使って化け物を倒せと。 
結果童子は化け物に食われ、4匹の犬全てが殺されたがなんとか化け物を倒すことができた。 
村人たちは化け物の腹を割き中から童子を取り出すとその躯を4つに分け4匹の犬の遺骸 
と共に村の4箇所に埋めた。 
今T家はその埋めた場所の一つの上に建っているんだと。 
他にあと三家がやはりそれを埋めた場所の上に建っている。 
それらを合わせてK村四家と呼ぶんだそうな。 
但し判っているのはT家とS家、M 家のみで残る一家は建っている場所も名前も伝わっていないそうだ。 
一説にそれは万が一の時の最後の砦で絶対に名前を知られてはいけないいんだとか。

な、くだらなくも少し面白い話だろ? 

で話しを現在に戻すと、三家は以来、半農半猟の暮らしをしている。 
S家は鉄砲を使いM家は犬を、そしてT家は罠で獣を捕り一部は村で喰い、一部は山の神に捧げる。 
獲物の遺骸や残滓はT家の裏山に埋めてそこに塚を建てた。 
神の住む山はこのK村には無い、もっとずっと遠くにある。 
だからみんなこの塚の事を「神無山」の「畜生塚」って呼んでいる。 

父は子供の頃この山に入ってひどい目にあったそうだ