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Aは小学生の頃、鉱山で働いている父に毎日弁当を届けていたんだと
話によると家から鉱山までの距離はそれほど遠くなく一つ竹やぶを抜けると
鉱山で働いている人達のアパートがあり3階建てだったらしい

アパートの各部屋にはその階の番号と部屋番号が書いてある木札が
掛けてあってどこの人かが分かるようになっていたんだわな
[2-3]とまあこんな感じで これだと2階の3号室って事になるわけだ

そこの管理人さんにいつも弁当を渡していたんだが
ある日、Aがいつものように弁当を管理人さんに届けようとすると
アパートが普段より一回り大きいことに気が付いた

何度見ても普段より大きい
数えてみると6階もあったんだと
でもその増えた階には人の気配はなかったそうだ
正確には人じゃない何かがいる気配を感じたらしい

すると5階の窓が開きおじさんがこっちを見た
よく見る人だった
父さんがよく家に連れてくるいつものおじさん


おじさんはAに向かって
「おぉ今日も弁当届けにきたんか、偉い偉い」

とだけ言い部屋の奥に入っていった
Aは存在する筈が無い階からおじさんが出てきたもんだから
少し驚いたがその時小学生ということもあって
すぐ切り替えができた

その次の日
また弁当を届けに行くとやはり
アパートは3階に戻っていた

さすがにおかしいと思い
管理人さんに聞いてみると少し間が空いてから
そんなことないだろうと笑われ全く話を聞いてくれなかった

確かに自分の言ってることはおかしい
だけどそれを誰かに話さずにはいられなかったんだろうな

Aは父に同じ事を話したんだと
アパートが6階あったこと、ある筈のない5階からよく見るおじさんが話しかけてきたこと

すると父は少し黙ってから静かに話し始めた
「実はなおじさんは仕事中の事故で亡くなったんだよ。
 でっかい石が落ちてきてな、あいつはお前のことを可愛がっていたから
 最後に会いたかったんだろうな。」

鉱山の事故で人が死ぬ事は少なくない

もしかしたらその増えた分は、亡くなった人が成仏できるまで
住んでいる部屋だったのかもしれない
Aは子供ながらにそう考えた

気が付くともう夕方だった
いつもより少し寂しい景色だったと
Aさんは言っていた

その日はAの大好きなカレーだったらしく
急いで帰っていると竹やぶに何かひっかかっている物を見つけた

すれ違いざまに見てみると
それは木札だった

その木札には間違いなく
[6-3]と書かれていたらしい