その店は大学からほど近く、同じ大学の学生がバイトに大勢いた。
そのバイト仲間のN君が夏休みに実家に帰省し、しばらくして大学&バイト先に帰ってきたんだが、なんだかあまり元気が無い。
どうかしたのかと尋ねてみると、暗い顔で語り始めた。
N君の実家は大きな地方都市のわりと繁華街に近いところにあった。
N君が家を出て近所を歩いていると、同じ中学だった顔見知りの先輩に偶然出会った。
挨拶し、なんとなく流れで飲みに行ったそうだ。
居酒屋で飲み食いした後、先輩が「俺のアパートで飲むか?」と誘ってくれて、
先輩の部屋へ酒を買い込んで向かった。
先輩とN君が他愛もない話をしながら飲んでいると、どこからか微かに呻き声のようなものが聞こえてきた。
N君は何だろうと不思議に思ったが、アパートの他の部屋から声が聞こえてきたのかなと考えたそう。
しかしまたしばらくすると先ほどと同じ呻き声のようなものが聞こえてくる。
何度か繰り返されるうちに、その声がどうやら先輩の部屋の押し入れから聞こえてくることに気付いた。
N君の表情や視線がおかしいことに気付いたのだろう、先輩はおもむろに押し入れの襖をバァーーンと開いた。
するとそこには、ひからびたミイラのような痩せこけたパンツ一枚の男が座っていて、男の前に洗面器が一つ置かれていた。
先輩は「うっせーんじゃゴラァー!」と怒鳴ってそのミイラのような男を何発か殴ったり蹴ったりした後、押し入れの襖をしめた。
恐ろしいやら訳がわからないやらで呆然としているN君に向かって、先輩は話し始めた。
「ひと月ほど前、飲み屋でケンカになった男を
ボコボコにして連れて帰って、押し入れに放り込んでる」と。
その後も平然と飲みながら世間話や昔話をする先輩。
N君は適当なところで「ほなまた」みたいな感じで帰ってきたらしいが、警察に報せるべきか、しかしそうすると俺がチクッたとバレてしまう、あんなキチ○イのようなことをする先輩の恨みを買ったらどうなるのか、中学も同じで実家までバレている・・・
などなどいろいろ考え、結局どうにもしないまま大学の方へ戻ってきたとのこと。
「あぁ、俺どうしよう・・・」とN君はしばらく落ち込んでいたが、N君自身、バンドにのめり込んだりして大学やバイトにあまり来なくなり、いつのまにか行方がわからなくなってしまった。
N君、元気か?
この話を一緒に聞いていたバイト仲間のみんなも元気かな?
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