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ある日、母親の元に一人暮らしをする娘のことで病院から
「娘さんが混乱しているので病院まできてほしい」と連絡があった。
母親が病院にいくと、娘は大声で「ママ!私が稼いだお金が消えたの!500万も必死で貯めたのに!」と騒ぎ出した。
落ち着かせて話を聞くと、娘は自分は売春婦だ、と告白をした。
また、娘は自分が高校時代に周囲に反対されて男と駆け落ちしたことを涙ながらに詫び、
その後、駆け落ち後どうやって暮らしていたのかを語りだした。

自分は高校時代にできた彼氏と駆け落ちするが、彼氏はDV癖があり彼の元から逃げ出した。
が、その時、妊娠しており、他に手段がないので体を売りお金を稼いだ。
子供を生むためのお金を貯めようとしていたが、お腹はどんどんふくらみ、自分を買う客も減り
生活も立ち行かなくなり、NPO法人(のようなもの?)に頼り、子供を出産した。
ただ、生活していけないため、出産後は子供を養子に出すしかなかった。

生まれた子供は女の子で名前はアンジェリーナ(?)と名づけて施設に預け、そこを通して教師夫婦にもらわれていった。
その後、子供を取り戻すため、また体を売り必死でお金を貯め続けたが
ある朝起きると、通帳等が置いてあった引き出しには文房具類が入っていて通帳が見当たらなかった。
泥棒が入ったと思い急いで警察を呼んだ。
警察は彼女の話を聞いて、当初は捜査をしようとするが、彼女がお金を預けたという銀行が存在しなかった。
さらに、警察が彼女の話を確認するために高校に確認を取ると、彼女はちゃんと卒業しており、駆け落ちした事実もない、とのこと。
必要なのは警察ではなく病院だ、とケアワーカーのような人に連絡をとり、病院につれていかれ精神科の医者が話をしていたところ
「そんなはずはない!」と暴れだし「私の500万を返せ!」と大暴れして母親に連絡がいった。

母親が娘の住む部屋を見たが、彼女の言うような「娼婦のドレス」は無く、彼女が普段から着ていたような地味な服ばかりで、化粧品も最小限。
また、彼女が勤務していたという売春宿にもいってみたが、そこはまったく関係の無い会社が建っており
娘の事を聞いても「ここら辺で見たことも無い」と言われた。
娘が客として相手にして、時々プライベートでも食事にいっていた、という男性に話を聞こうといってみたが
勤務先として教えられた税理士事務所も存在せず、二人でよく食事をしたお店もいってみたら雑貨店だった。
彼女が娼婦仕事の合間に寄っていたというバーも覗いてみたが、ただのカフェでお酒の取り扱いはしていなかった。

ちなみに実際の彼女の人生はまったく異なるもので、
高校卒業後、小さな会社に勤めていたが、職場での人間関係に悩み退職
アルバイトをしながら精神科に通って治療をしていたが、回復してきたため
今は資格をとるために勉強をしている、とこの事件が起きる前の週に娘と電話で話をしたところだった。

その後、彼女は母親の元に戻り、統合失調症という診断を受けて治療を受けるが
未だに「本来自分が過ごしていた自分」についての記憶が無く、
娼婦としての生々しい記憶が鮮明にあるため、自分が周囲に騙されているのではないかという気持ちが湧くこともある、と語っていた。
精神科医曰く一種の「逃避」らしい
こういうことは実際にはよくあり、大抵は一日二日の記憶の置き換えのようなものなので問題になることはなく
彼女の様に数年に渡り記憶が改ざんされることは珍しいらしい。
ツライ体験をした時に、後からそれを妄想で上書きしてそちらが事実だと思い込み、その「思い込んだ自分」を忘れることで
最初からその妄想が事実であるかのように錯覚するのだと。
ちなみに、女性の場合、この「妊娠出産を経験した」というのが多いとのこと。