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姉は妹から見ると勘が働くタイプで、私の就職や、抽選の当落を察知する。
どういうことかというと、面接が終わった日に「就職、決まったみたいよ」と言い当てたり(落ちた会社の面接の後には何も言わなかった)、抽選のあるコンサートチケット応募後に「当たってると思う。ホテルとか手配したら」と教えて(?)くれたりする(当選してました)。
本人は「就職決まった!って電波みたいなものが届くの」とか「当たりやすい抽選があるのよ」と言っている。
私には理解できない。そんな姉の話です。

数年前のお彼岸の日曜。両親と姉と私の家族四人で先祖の墓参りをすることにしていたのに、朝になって姉が「なんだか頭が痛い…」と行きしぶりだした。
とはいえ日曜以外に行ける日はなかったので、まあみんなで行こう、車の中で寝ていてもいいから、と決行することに。
出発が遅れたのでちょっとみんな焦り気味。お墓は離れた北の町のしかも山の中にあるので、朝早めに出発し午後帰る予定だった。

ところが今度は車のエンジンがかからない。
バッテリーが上がっていたのだけど、ライトをつけっぱなしにしたのでもないのに…。
今日行かねば、と父はなんとかエンジンをかけようとしていた。
そこに、電話がかかってきた。今しがた親戚が亡くなったという知らせだった。
それを待っていたかのようにエンジンがかかったが、行先は北から南に変更。
やはり離れている市にある、その親戚の元だ。
もし北のお墓に行っていたら、連絡を受けても正反対の方角で、その日には訪問できなかっただろう。
翌日以降の通夜や葬式に一家そろって参列することはできなかっただろう。
交流はあったが血縁では少し遠い親戚で、私や姉は学校や仕事を休んで参列することはなかったと思う。
私たち姉妹をかわいがってくれていた人なので、荼毘に付される前に顔が見られてよかったと思った。
「ご先祖様が足止めしてくれたのかなあ」「いや亡くなる人が正反対の方向に行くなというメッセージをくれたのかも」などとみんなで言い合った。そういえば南に向かう頃には姉の頭痛はおさまっていたという。

最近になって姉から後日譚を聞いた。
翌日私は学校に行き、姉は出勤した。姉の勤め先はミュージアム。
そこではこれから行われる展覧会でわれらが祖先の遺物が展示されることになっていた。
日曜の翌日は月曜で休館日だったが、展覧会準備のために姉は出勤していた。
その休館日で人気はなかったミュージアムの、件の遺物もおかれている倉庫の中でガタッ!!ゴトゴト…と物音がしたそうだ。
もちろん異変はないかと見に行った。貴重な収蔵物がおいてある倉庫だ。泥棒かもしれない。
けれどだれもいなかった。物品の乱れもなかった。
倉庫は施錠されているし、ネズミ一匹いない…というかネズミや猫のたてる音よりずっと大きい、重い音だった。

そこで。姉は思い出した。
昨日、亡くなった人の枕辺には親戚が集まり、しめやかに思い出を語らったりしていた。
長寿で大往生だったため、ものすごい悲壮さはなく、一同悲しいながらもなごやかに故人を悼んでいた。
その時、姉はふと、祖先の遺物を展示することになって今職場の倉庫にその品を預かっていると話した。
遺物は昔ある自治体に寄贈してしまっていて家にはない。
親戚の中で見たことのある人も少ない、珍しい品となっていた。
親戚たちは展覧会を見に行く、と言ってくれていたが、故人はもう見られない。けれどその場の故人の耳にその話は入っていたのではないか。
故人の家の宗教によると、亡くなって七日ごとに担当の仏様に教えを受けて四十九日目には成仏してしまう。
(というようなことが葬式や法事で読むために配られるお経冊子に書いてある)
仏様の教えを受けていては展覧会を見る余裕はなく成仏してしまうだろう…。
というわけで、故人は早々に祖先の遺物を倉庫まで見に来たのではないかと。
「見られたならよかったわね」と姉は言った。