ある日、日曜の生放送。
昼間の2時間を、地元の無名タレントに任せていた。
季節は忘れたが、外は青空。
スタジオから外は見えない。
タレントは相手の若い女の子とテンポよくトークを続けている。
俺はデスクワークをしながら、放送をチェックしている。
すると、トークが突然止まった。
「今、雷鳴ったよねえ?」タレントが言う。アシの女の子も「ゴロゴロって鳴りましたねえ」。
普段は声を出さないミキサーのおっさんも「鳴った鳴った」とオフマイクで同意してる。
屋外の状況がスタジオよりわかるはずの俺に、そんな音は聞こえていないし、窓の外は相変わらずの晴天。雷雲など遥かにも見えない。
スタジオのタレントたちは「気のせいですかねえ」などと釈然としない様子だったが、そのまま番組を進めた。
その後、「私には聞こえませんでした、なんでしょうねえ」などといったリスナーからのメールが何通か届いていた。
番組が終わり、スタジオから出てきた彼らに聞くと、確かに聞こえたのだと言う。
しかも、ヘッドホンの外から「ゴロゴロッ」と(スタジオでは番組中は皆ヘッドホンを装着するのが基本)。
しかしそれを聞いて俺は違和感を覚えた。
ヘッドホンは外からの音を遮る効果もある、かなり本格的なものだ。しかも、ラジオのスタジオは当然なが防音対策が施されている。
そんな状況で、スタジオの外、まして屋外の音が聞こえてくるはずはないのだ。
俺は彼らと一緒に、同録(放送局は放送を事後確認できるように放送をすべて録音している)のその部分を聞いてみることにした。
スタジオにいる者の耳に聞こえるほどの音なら、マイクから入って録音されている(つまり放送に乗っている)はずなのだ。
ところが、同録にはそれらしい音は全く入っていなかった。
つまり、放送には乗っていなかったということになる。
と言って、3人が申し合わせて嘘を言っているようにも思えなかった。
原因をそれ以上探る術もなく、不思議な現象ということで話は終わった。
上と同じ放送局での話。
もしかしたら何年か前にも披露したかもしれんので2度目の向きにはスマン。
ある日、女性社員が、地元の誰だったかをゲストに招いて収録をしていた。
俺は別の部屋で編集か何かをしていた。
そこに、その社員が青ざめた顔をして入ってきた。
「これ…聴いてみてもらえますか…」。
恐る恐る1枚のMDを俺に差し出す(時代がわかるなw)。
何分何秒のとこです、と彼女。
俺は技術も兼ねていたので、何かトラブルがあって上手く録音できなかったのかと思いながら、言われた部分を聴いてみた。
彼女が聞き手になり、ゲスト(おっさん)がインタビューを受けている。
しゃべっているのはその2人だけだ。
ゲストが口下手らしく、会話のそこかしこに間ができている。
まあそんなのは後でいくらでも編集してしまえるのでさしたる問題ではないし、音もちゃんと録れている。
はて…?と思いながらなおも聴いていくと、突如「○△×□!」と、彼女でもゲストのでもない、男とも女とも、日本語とも英語とも中国語ともつかない、だが明らかに人が何かしゃべったような声が聴こえてきた。
俺はヘッドホンを外し、「もしかしてこれ…」と彼女に訊いた。
「スタジオには私とゲストさんしかいなかったし、扉はきちんと閉めてたんですよ、でもこれ人の声ですよねえ…もうイヤぁ…」、顔面蒼白ガクブルの彼女。
俺はその部分をもいちど繰り返し聴く。
で、俺の出した技術的見地からの結論は、「誰かがマイクの至近距離で声を出した」だった。
音の大きさや音圧から、本来しゃべっていた2人よりもさらにマイクに近い距離から発せられた声であること、確証はないが人の声に限りなく近いこと、と断定した。
しかし、スタジオに2人しかいなかったのは状況からして事実だし、ましてこれだけマイクの近くで発生したような音が、スタジオの外から入り込む余地はない。
俺も首をかしげるしかなかった。
俺の分析結果を聞いた彼女は、卒倒寸前になりながら、怖くてこれ以上触れない…と言い、そのMDを俺に押し付けてフラフラと去っていった。
俺は仕方なく、その声の部分を削除して別のMDにコピーしたものを彼女に届け、番組は無事放送されたのだった。
ちなみにその元のMDは、今も俺の手元にある。
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