俺にはYって親友がいた。
小学校からの付き合いで、何をするにも一緒だった。
中学の時、俺たちは学校の裏山にある廃工場へ探検に行った。
古びた鉄の扉を開けると、内部はほこりと錆の臭いが充満していた。
機械はすべて撤去されていたが、広い工場内には朽ちた棚や作業台が散乱していて、まるで時間が止まったようだった。
「……なんか気味悪いな」
Yがぼそっと言った。俺も同感だった。
特に、奥の壁一面が妙だった。
そこには、無数の名前が刻まれていた。
すべて、Yの名前だった。
「……なんだよ、これ……?」
Yは震える声でつぶやいた。
壁にはびっしりとYのフルネームが書き込まれている。
色褪せたものもあれば、比較的新しいものもある。
誰が、何のために、こんなことをしたのか——想像するだけで背筋が寒くなった。
Yはその場にへたり込み、声を押し殺して泣いていた。
俺はYの腕を引っ張った。
工場を出た時には、すっかり暗くなっていた。
夕方に入ったはずなのに、まるで時間が飛んだみたいだった。
「ヤバいな、帰ろうぜ」
俺が言った時——Yの声がしなかった。
辺りを探しても、どこにもいない。
名前が刻まれたあの壁の前にも。
入り口にも。
怖くなって、俺は猛ダッシュで山を下りた。
家に帰ると、親が心配そうに俺を迎えた。
「一人で山に入ったの?」
「いや、Yと一緒だったんだけど……」
親は変な顔をした。
翌日、学校でも同じ反応だった。
Yのことを話すと、みんな「誰?」と聞き返す。
担任に至っては「そんな生徒、最初からいないぞ」とまで言った。
そんなはずはない。
俺はYと小学校からずっと一緒だったのに——。
放課後、俺はYの家へ向かった。
でも、そこには何もなかった。
空き地になっていた。
まるで最初から、そこに家なんてなかったみたいに——。
震える手で、小学校の卒業アルバムを開いた。
俺の隣に、Yがいるはずだった。
でも、そこには誰もいなかった。
写真に空白があるわけじゃない。
最初から、俺は一人だったみたいに——。
あいつは、確かに俺の隣にいたはずなのに。

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