玄関でチャイムの音がしたから、10歳くらいだった自分は率先して出た。
両親共働きで祖父母と小さな弟しかいなかったから。
すでに鍵を掛けてしまっていたが、玄関ドアと磨りガラスごしに女性だとわかった。
近所の人かと思い、何も考えずに開けてしまった。
入ってきたのは初老の女性で見たことも無い人だった。
老女は「この本を買ってくれ、1000円」と言い、目の前に古びた本を突き出した。
祖父がどうしたーと言いながら玄関まで来ると、入ってきた老女は同じことを繰り返した。
こんな古びた本に1000円?と10歳ながら不信感を顔に出していたと思う。
祖父は「わかった、1000円な」と言い、老女に1000円札を渡した。
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